日本は農業大国

『日本は世界5位の農業大国』(淺川芳裕著、10年2月刊、講談社+α新書)が面白い。長くなりますが、面白い個所を紹介します。
 ネギの生産量が世界1の国はどこ? 答えは日本です。
国内の農業生産額はおよそ8兆円。これは世界5位。先進国に限れば米国に次ぐ2位である。(農家の所得は世界6位)
 世界全体でみても、農民が大多数を占める中国が一位、そして2位の米国、3位インド、4位ブラジル、そして日本が5位。これはEU諸国のどこよりも多い。17位のオーストラリヤ(259億ドル)の3倍もある。
 日本は世界最大の農産物輸入国ではない!日、米、英、仏、独の農産物輸入額をみよう。1位が米国の747億ドル、2位がドイツの703億ドル、次いで英国535億ドル、フランス445億ドル、日本は460億ドル。
 国民1人当りの輸入額を試算しても、1位英国880ドル、続いてドイツ851ドル、フランス720ドル、日本はフランスの半分の360ドル、惟晩少ない米国の244ドルと大差ない。
 さて食料自給率です。これはカロリーベースの数字です。
 食料自給率=一日一人当たり国産供給カロリー/1人1日あたり供給カロリー
=(国産+輸出)供給カロリー÷人口/(国産+輸入―輸出)供給カロリー÷人口
です。供給カロリーというのは、摂取カロリーではありません。
 厚生労働省の調査(05年)によると、摂取カロリーは1904キロカロリー、流通にでまわったカロリーは2573キロカロリー。その差700キロカロリー弱はどこに消えたか?それは毎日大量に処分されるコンビニ食品工場での廃棄分や、ファーストフード店、ファミレス、一般家庭での食べ残しなど。誰の胃袋にも納まらなかった食料も自給率の計算に入っている。
 その量、1900万トン、日本の農産物輸入量5450万トンの3分の1近く、世界の食料援助量約600万トンの3倍以上に及ぶ。
 また、分子の国産供給カロリーには、全国に200万戸以上ある農産物をほとんど販売していない自給的な農家や副業的な農家などが生産するコメや野菜は含まれていない。
 プロの農家が作る農産物でも、価格下落や規格外を理由に畑で廃棄されているものが2,3割ある。当然それも分子に含まれない。つまり、実際の生産量、生産能力は農水省発表の数字よりずっと高いのである。
 厚生労働省が定める健康に適正な「食事摂取カロリー」を基準に自給率を試算してみる。
 国民1人一日当りの平均カロリーは1809カロリー。国産供給カロリー1012キロカロリーをそれで割ると、自給率は56%にもなる。実際の「摂取カロリー(05年)」をベースにすると、摂取1904、国産1029キロカロリー、54%である。ここにカウントされてない畑での大量廃棄、そして非販売農家の自給とおすそわけ生産を加えれば60%を超えるはずだ。
 また、牛肉や豚肉、鶏卵、牛乳といった畜産酪農品の場合、実際に国内で飼育した牛、豚、鶏などであっても、すべてが国産として扱われるわけではない。どういうことかというと、農水省自給率計算では、実際に国産品が供給するカロリーに、飼料自給率(国産飼料の割合)を乗じて計算される。つまり、国産のエサを食べて育った家畜だけが自給率の対象になる。
 そのため、畜産物の実際のカロリーベース自給率は68%、農水省自給率計算では17%になまで落ち込み、その数字が全体の自給率計算に用いられるのだ。
 生産額ベースで自給率をみたらどうなるか?
 07年で見ると、分子が10兆37億円、分母が15兆941億円で、自給率は66%となる。この日本の66%は主要先進国の中で3位である。さらに、農業生産高に占める国内販売シェアは1位、これは日本の輸入依存度がもっとも低いことを表している。
 等々、びっくりするような話が続きます。
 筆者の主張は、「専門農家は、カロリーがあっても価格が低い農産物よりも、カロリーが少なくて高く売れる農産物(野菜・花や果物など)を生産するから、カロリーベースで自給率が低いのは当然。農水省自給率向上をうたうのは、農水省が予算を貰うためで、自給率が重要でないとは言わないが、実態のデータに基くべきだ」というのです。
 そして、今までの農水省の政策もダメだが、民主党の農家の戸別所得補償も愚策と決め付けています。(民主党の)この制度は「コメや麦、大豆など自給率向上に寄与し、販売価格が生産費を下回る農産物を作っている農家に、その差額を補填する」というもの。
 これは、農家の無能さ、生産性の低さを前提としている。・・・この制度下では、何を作るか(生産)は「政府」が管理し、どれだけ作るか(数量)は「行政」が計画する。
こんな社会主義的政策がうまくいく筈がない。
 補償金を貰う農家は、コメ、麦、大豆生産で得た収入があれば、野菜専業で補償金なしの黒字経営をしている農家より、作った野菜を安く売っても、元が取れることになる。
 それに、日本の農業生産額約8兆円のうち、赤字補填の対象になるコメは約1兆8000億円、小麦は約290億円、大豆は約240億円、3穀物合わせても2兆円に満たない。
 EUで農家の所得補償をやっているというが、EUの制度と民主党の制度とは全然違う。
 小麦を例にとると、EUでは、農地の面積当りで補償額を計算する。1ヘクタールの補償額は約5万円である。 一方、民主党案では、補償は生産コストに対して行われる。日本で小麦を生産する際の平均コストは、1ヘクタールで約60万円だが、出来た小麦は約6万円。この差額約54万円の赤字を丸々補償するという。

 筆者は戸別補償政策に代わる「黒字化優遇制度」を提案しています。補償金でなく、融資を行う。返済期限をたとえば5年とし、5年目の時点で黒字化に成功すれば返済免除。赤字だったら返済しなければならないという制度です(これは面白いですね)。

追伸:読んで、あらためて自分が、日本の農業について何も知らない、ということを知りました。