『孫の力』

『孫の力』という中公新書の1月の新刊を読みました。著者の島泰三さんは「サル学者」。
【ジイジはサル学者。野生のサルを1日12時間追跡する生活を、3年続けたこともある。そのねばり強さで、孫娘の誕生から6歳までの成長を観察した記録が本書だ。「ヒトという特別な生き物の、心の始まりを解明したかった」】
という新聞の書評に惹かれて、大学図書館から借りてきました。
【初めてのほほ笑み、初めての言葉。やがて「意識」が生まれ、相手を思いやる気持ちを芽生えさせる。「心が花開いていく道のりは、毎日奇跡に立ち会っているようなもの」。】という、サル学の手法による孫娘の観察記録ですが、私が面白いと感じた点を列記してみます。
【 寿命の短い江戸時代の人々にとって、孫を見るのは希有(けう)なことだったという。「人生のたそがれ時に、芽吹く命に出会う。孫は生き物としての喜びを思い出させてくれる存在、生きる力になる」】
【4歳の子どもは、もう赤ん坊とはいえない。それは脳の発達からも跡づけられる。この時期に子どもの脳容量は大人のほぼ9割にまで達し、神経線維の髄鞘が形成されて、それぞれの脳神経の間のつながりが確実になる。髄鞘とは電線の被服のようなものだから、それまでは電気が無秩序に洩れることあったのが、洩れなくなったと思えばいいかもしれない。もっとも髄鞘の形成は生後6ヶ月から始まり18歳まで続く長い過程だから、4歳で完成というわけではない。】
そして【5歳になった子どもには個性が出てくる。】、“「子ども」と侮るなかれ”という章があります。
【5歳8ヶ月ではお友達が新幹線はなぜ速いかを説明したことに、孫娘は感動していた。
孫娘が「よくしっている」と感動した友達は「鉄道マニア」としていろいろな情報を集めて、保育園の友だちに説明できるほどの知識を身につけたのだろう。
 祖父はいまようやくそれに気付いて、新幹線はなぜ速いのかと調べてみる。当初の電車は600ボルトの直流だったが、その後交流を使うようになり、電圧も2万ボルトという高電圧になる。新幹線は在来線よりもさらに電圧の高い2万5千ボルトを使っているとわかって、びっくりする。
 私たちは子どもというだけで、高度な知識は必要ないと思いがちだが、5歳にもなった子どもの理解力には恐るべきものあるので、1歳の赤ん坊に対するような絵本とともに大人にも役立つ高度な内容の本や辞書や百科事典や図鑑を常に用意しておかねばならない。】
更に、湯川秀樹さんの文章を引用しています。
【「彼(湯川)はこの祖父に5歳の頃から中国古典を習った。素読は原文を祖父が読むままに繰り返すというただそれだけのことだったが、これが決定的に重要だった。」・・・
素読は、近世日本の初等教育の基本だった。これを廃して小学生に幼稚な文章を与えるようになったのは、明治以来の日本人教育の悪癖である。】
 この本、“ジジバカにささげる本”かもしれません。