変わる世界、立ち遅れる日本

岩波新書講談社新書を2冊ずつ読んだので、今度はPHP新書を2冊購入して読みました。

『世界を知る力』(寺島実郎著、10年1月刊)と『変わる世界、立ち遅れる日本』(ビル・エモット著、10年3月刊)です。

 寺島さん(1947年生まれ)は、多摩大学学長。三井物産戦略研究所会長、財団法人日本総合研究所会長を兼任というすごい方。エモットさん(1956年生まれ)は、06年までエコノミスト編集長。ベストセラー「日はまた沈む」、「日はまた昇る」の著者です。

 この著名なお二人が、「21世紀の日本」を論じているので、これは面白そうと買ってきた次第です。

 まずは、エモット氏の所論。( )内は私の記入です。

【(「市場原理主義」への批判は多いが)日本には「市場原理主義」というものがまったく存在しなかった・・。01年〜06年の小泉政権は、市場化や自由化について、実はめぼしい拡大を何も行っていない。】

小泉政権が行った(日本経済に意味のある)ことは「市場原理主義」ではなくて、

【経済と社会における、小泉政権の最大の変革で生じたのは、労働市場の2極化である。このプロセスはすでに1990年代に始まっていたが、小泉政権下で大幅に加速した。

 その改革によって、2008年にはパートタイマーや非正規雇用者が、労働者の34%を占める結果を生んだ一方で、フルタイムや正規の雇用者には、手厚い保護と権利が保障された。これが世帯収入を長期的に減少させてデフレを惹起し、さらには貧困層の増大と、大きな所得格差を生んだのだ。】

(そして)

【日本の大学は、研究や教育機関として、かつては世界最高位に君臨していたが、いまや、全般的にそこから転落した。・・・・

 それ以上に打撃を受けたのは、パートタイマーと非正規労働者の雇用がこの15年間で大きく拡大し、いまや労働者の34%にまで達したことである。そのような労働者は企業から訓練を受けることが少なく、人的資本として蓄積されない。(彼らは)ドラッカーが推薦したような「知的労働者」として扱われるべきなのに、廉価で無教育の未熟練労働者として扱われているのだ。】

(大学もレベルダウンしたが、日本の労働者の知的レベルも、非正規雇用でレベルダウンした。)

【02年〜07年の間、日本の経済成長の3分の2は、完全に輸出によってもたらされていた。換言すれば、日本の輸出は、輸入のベースよりも急速に拡大したのだ。この急激に高まった輸出需要の一番の供給先は、自由化によって市場が急成長を遂げていた中国であり、その次がアメリカであった。

 一方で、日本の国内需要は弱かった。なぜか?一つはデフレと賃金低下のせいだが、もう一つの原因は、日本がサービス業分野での生産性と効率の向上に失敗し、そこでの所得や利益を生み出すことができなかったからである。】(続く)