消費税のカラクリ

「議論、消費税にとどめるな」と題する記事が3日の朝日朝刊に載っていました。安井編集委員の寄稿ですが、面白い指摘を紹介します。
『21年前消費税の導入にあたり、政府が繰り返し訴えたのは、「直間比率の是正」。所得税法人税など直接税中心の税制から主要国並みに間接税に頼る税制に変えてゆくという考えだった。税収の中の間接税比率(国税分)をみると、消費税が導入された89年度は25.8%。イギリスは43.4%、ドイツは46.8%、フランスは60.9%だったから、日本の比率は確かに低かった。
それが今では46.5%(10年度予算)だ。主要国(08年度)をみると、英38.8%、独55.1%、仏57.6%。国税に限れば、国際水準に近づいた。ただ、日本が何かと手本にする米国は6%と、直接税に頼る。(中略)
景気の低迷で主要な直接税である所得税法人税がピークに比べ半分以下に減ってしまったことが大きな理由だ。そうした要因に加えて、消費税が導入され、3%から5%に引き上げられる過程で実施された、さまざまな税制改革の影響もある。
例えば、所得税では中低所得者も04年までは軽減されたが、高所得者最高税率が引き下げられるなど累進構造は見直され、負担が軽減された。法人税も減税された・・・・
税制改革の論議を消費税をどうデザインするかにとどめてはならない。所得の再配分機能を回復するため、所得税相続税なども議論すべきである。』

私が疑問に思うのは、増税が必要であるとしても(その点問題があると考えるが)、その増税すべき税が何故消費税でないといけないのか?消費税アップを止めて、法人税所得税の累進税率アップでは何故いけないのか?

今、『消費税のカラクリ』(斎藤貴男著、講談社現代新書)を読んでいるが、同書では、
所得税の累進税率を20年前のレベルに戻すだけで、所得税収はたちまち倍増する。
(かつて19区分最高税率75%であったが、1980年代半ばから緩和されつづけ、99年からはわずか4区分、最高税37%。年間所得100億円の人と1800万1円の人は税率が同じになった。)
法人税が聖域のように扱われるのもおかしい。財界や政府が強調するほどには日本の法人税率は高くないし、社会保険料を含めれば、企業の負担は諸外国の法人よりずっと軽くなっている。

法人税への依存を軽減しなければ、大企業の工場だけでなく、本社機能や有能な人材まで海外に流出してしまうぞといった恫喝など受け流そう。
企業の立地要因はその地域の市場規模や労働力の質・量とコスト、補助金をはじめとする優遇制度、インフラの程度、安全性や環境対策等々での各種規制など多様かつ複雑であり、税率だけで決定されることなどありえない。』と述べている。
『消費税が輸出補助金として機能している』ってご存知ですか。
 外国に輸出される物品などは、通常輸出先の国で間接税(消費税)が課されます。わが国で輸出される物品に消費税を課すと、二重に課税されることになります。そこで、輸出の際、国内で課された消費税は還付する仕組みになっています(輸出戻し税)。この金額が半端でない。07年度のデータで、トヨタは3219億円、以下(単位億円)ソニー(1587)、本田(1200)、日産(1035)、キャノン(990)、マツダ(803)、松下(735)、東芝(703)、三菱自(657)、スズキ(518)と続いている。

 理屈の上では、輸出企業は仕入れの際に支払った消費税分を取り戻しただけだ。
 しかし、実際の取引においては、消費税を上乗せした金額を納入業者にそのまま払っているわけではない。必ず単価の切り下げを要求するし、またいうまでもないが、輸出企業がその都度その金額を税務署に払っているわけでもない。結局、輸出戻し税制度は、税制を通じて、輸出補助金になる。通常の補助金は議会の承認が必要だが、これは議会の預かり知らない補助金なのである。

 輸出大企業は、消費税の引き上げでまったく被害なく、場合によっては、引き上げ幅が大きいほど利益を生むのである。
 中国やインドなど、アジヤの新興国でも、この輸出戻し税方式がとられている。WTOは、公平貿易の観点から輸出への補助金を禁止している。だから、消費税の戻し制度という名目で、実質的な輸出補助金を出しているのだ(GATTの時代から先進国で既に行われていた)。

 日本経団連は幾度となく、消費税の引き上げを求める提言をしてきた。2003年の奥田ヴィジョンで、「04年から毎年1%ずつ消費税率を上げて14年度から先は16%に据え置く」と説き、07年には「経済財政諮問会議」が「消費税率を2025年までに最低でも17%程度まで引き上げる必要がある」旨の試算を基に議論を進める方針を決定した。

 財政再建のための正論である。しかし、正論にも色々あって、人は、自分に有利な正論は声を大にして唱えるが、不利になる正論には、口を閉ざしているものらしい。

 もう一つ、先日IMFが日本に関する審査で、来年から消費税の引き上げが必要だ、と声明したそうである。
 注意しなければいけないのは、IMFの日本に関する勧告や声明は、当然IMFの日本人スタッフが担当する。彼らの多くは、財務省からの出向である。財務省に気に入られる勧告を出せば、彼らにとって出世のステップになるのだ。

1998年、自殺者が年間3万人を超えました。以来昨年まで(多分今年も?)12年間3万人以上の人が自殺しています。1998年という年は、橋本内閣が消費税率を3%から5%に引き上げた97年の翌年です。消費税と自殺はあまり関係がない、と思われる方は、以下の記述をお読みください。

まず、中小企業と消費税の関係です。「益税」という言葉があります。商店で買い物をすれば、消費税を払いますが、この消費税を、商店ではまとめて税務署に払います。納税まで、いわば商店の預り金になります。ところが、年間売上が一定金額(以前は3千万円、今は1千万円)以下だと、消費税を納めなくて良いという制度になっている。商店主は、消費者の払った消費税をポケットに入れて良い。これが「益税」といわれます。誤解のないようにいうと、売上の5%をポケットに入れるわけではありません。商品の仕入れに際しては5%払っているわけですから。いわば、その商店の付加価値の5%がポケットに入る。消費税の導入に際し、中小企業の反対をなだめるため設けられた制度です。
中小企業主は「益税があるから、まぁいいか!」と思ったのかもしれませんが、実際に制度が始まると、とんでもないことになりました。消費税は実質的に売上税になる(*)。法人税は利益がなければ、税金はかかりませんが、売上税は利益が出ようが出まいが、売上があれば税金がかかります(しかも免税限度額が3000万円から1000万円になった(04年))。
不景気とデフレが続くと、商店の付加価値はゼロどころか、時にはマイナスにさえなる。そこに税金がかかるのです。税金は預かり金といっても、消費税分を乗せた値段では売れなくなる。
ここで、税金の種類によって、滞納される税金はどれくらいか?見てみます。
法人税相続税、消費税、源泉所得税などがありますが、国税庁発表の「平成20年度租税滞納状況」によると、滞納額は全税目で1兆5538億円。消費税はこの29.2%にあたる4537億円(ただし国税分、消費税は国税4%、地方税1%)。消費税が1998年から急増し最悪です。
本来なら、消費税は顧客からの預り金ですから、滞納はないはずです。ところが、実際は、預り金ではなく、商店主が自腹で払う売上税になっている。だから、財務省は消費税にこだわるのです。法人税は、不景気で利益が出ないと取れないが、売上税は利益に関係なく、とれるからです。納税者側から言うと、不景気で資金繰りに困っている時に税金を払わねばならない!
職業別の自殺者数(09年)を見ると、無職者(18722名、57%)、勤め人(9159名、27.9%)、自営業・家族従事者(3202名、9.7%)となっています。
自殺者の自営業・家族従事者対勤め人の比は、1:3ですが、
就業者の数でいうと、自営業・家族従事者(796万人)、勤め人(6282万人)で比率は1:7ですから、自営業の自殺率は勤め人の倍以上です。
私は、自殺者の増加は非正規雇用の増加と関係があると思っていましたが、これにも、消費税が関係しているらしい。
理論的には、消費税は付加価値に税率を乗じたものになる。正社員に仕事をさせれば、その賃金は企業の付加価値になるが、派遣に切り替えれば、その賃金はその企業の付加価値にはならない。節税ができるのだ。
以上のようなことを考えると、簡単に「10%でどう」などと発言する首相は、軽率のそしりを免れないのは当然です。これが本日一番に言いたかったことです。
(*)年商5000万円以下はは見なし仕入れ率で消費税を計算する簡易課税精度を選択できる。見方を変えれば、この簡易課税は売上税そのものである。