日米同盟の正体

『日米同盟の正体』(講談社現代新書、09年3月刊行)という本を読みました。鳩山前首相が普天間問題で辞任してから、日米安保がどうなっているかが気になって参考書を探したら、この本が見つかったのです。
著者の孫崎 享(まごさき うける、1943〜)は、『日本外交 現場からの証言』で山本七平賞受賞。元外務官僚(ウズベキスタン大使、イラン大使)、元防衛大学校教授(02〜09年)。
以下、さわりの要約を紹介します。
80年代からシーレーン防衛構想というのがあります。自衛隊にP―3C対潜水艦哨戒機を大量に保有させ石油の補給海路を確保させる。日本から1000海里(パラオ付近まで)を自衛隊が守り、それ以西の防衛を米軍が担当するというものです。日本人はそう理解し、実際に自衛隊はP―3Cを保有しました。しかし、米国の狙いは別にあった。オホーツク海ソ連の潜水艦に対抗するため日本の海上自衛隊を活用しようというものでした。ソ連艦からの米国本土への核ミサイル攻撃を防止するために必要な計画だったが、財政赤字に悩む米国政府は、シーレーン防衛を口実にして日本に費用負担させたというわけ。
 「日米安保のおかげで、日本の防衛費はGNPの1%ですんでいる」と米国の防衛長官が公言したそうだが、その1%しかない国防費が日本ではなく米国の防衛のために使われている。
別の観点から言うと、日米安保により、日本の防衛は米国の防衛と一体化している。これは、ある意味で当然で、米国国防省としては、両国の防衛の責任を負わされれば、二つの任務を別々に考えることはない。
日米の防衛の一体化は、何をもたらすか?日本と関係のない国の紛争に日本が巻き込まれる危険が出てくる。それを防ぐのが極東条項でした。ところが・・・
【2005年10月29日、日本の外務大臣防衛庁長官と米国の国務長官、国防長官は「日米同盟:未来のための変革と再編」という文書に署名した。日本ではこの文書はさほど注目されてこなかったが、これは日米安保条約にとって代わったものと言っていい。(第3次小泉内閣町村外相、大野防衛庁長官)】
 何が変わったか。まずは対象の範囲である。
 【日米安保条約は第6条で、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全に寄与するため」とする極東条項を盛っている。・・・それが「未来のための変革と再編」では、同盟関係は、「世界における課題に効果的に対処する上で重要な役割を果たしている」とした。日米の安全保障協力の対象が極東から世界に拡大された。】
次に『9.11は21世紀の真珠湾攻撃』という話。
英国首相チャーチルは、真珠湾攻撃の報を聞いて「真珠湾攻撃によってわれわれは戦争に勝ったのだ・・・満身これ感激と興奮という状態で私は床につき、救われて感謝に満ちた」(第二次世界大戦史)
日本国民が「勝った!勝った!」と喜んでいたとき、チャーチルも「これで勝った!」と喜んだ。米国が日・独に開戦してくれるかどうかが勝敗の帰趨を決めると思っていたのだ。米国では、ルーズベルトがそう思っていた。米国民に開戦を納得させるには、どうしても日本に開戦させなくては!彼は暗号解読で、日本の宣戦布告を知りながら、軍の前線には知らせなかった。
同様なことが、9.11であった。
【CNCは04年4月10日、下記報道を行った。「以下は『オサマ・ビン・ラデインは米国を攻撃する』と題する大統領へのブリーフィング、2001年8月3日分の写しである。・・・」】
ブッシュ大統領とその側近は、要するに戦争をやりたかった。そのため、ビン・ラデインのテロの情報を事前に入手しながら、それを握り潰した。
戦争をやりたかった理由は二つ。一つは、軍事費の予算を取りたかった。
1961年1月17日、アイゼンハワー大統領は離任を3日後に控え、国民に演説した。
『われわれは産軍共同体が不当な影響力をもつことに警戒しなければならない。・・・産軍共同体が自由と民主的動向を危険にさらすようにさせてはならない。』
アイゼンハワーは、巨大な力を持った産軍共同体が米国全体の利益に反して戦争に突入する危険を警告した(私見だが、この演説によりアイゼンハワーは歴史に名を残す大統領になった)。
湾岸戦争で、日本は130億ドルの資金協力をしたが、いま、イラク戦争の出費は毎月120億ドル。タイムズ紙は08年2月23日、戦死者への補償などの間接費を加えると3兆ドルに達すると報じた。産軍共同体によって、米国全体の利益に反する戦争に米国民は引き込まれたのです。
もう一つは、テロとの戦争、実はビン・ラデインとの戦争が、米国の意味するテロとの戦争でなかった。米国の狙いは、ハマスヒズボラパレスチナ)である。ビン・ラデインの狙いは分かっている。サウジアラビヤからの米兵撤退です。そのため米国は9.11以後サウジから米軍を撤退させた。だから、ビン・ラデインに関する限り、テロとの戦いの必要はなくなったのだが、米国の政治や軍事に大きく左右しているのは、イスラエル・ロビーです。だから、ハマスを潰すため、「テロとの戦い」を止めるわけに行かない。
(もう一つ、原油とからんで、フセインを叩くという狙いがあったと思うが・・・)
長々と述べてきたのは、米国の軍事戦略をきめているのは、産軍共同体やイスラエルロビーであるから、米国に無条件でついていくと、とんでもない戦争に巻き込まれる可能性がある、極東条項は外すべきでなかった、と言いたいからです。(つづく)