ルポ貧困大国アメリカ?

 『ルポ貧困大国アメリカ?』(堤未果著、岩波新書、10年1月刊)を読みました。

 第1章は「公教育が借金地獄に変わる」。学資ローンの重圧に悩む人々のレポートです。かつて、教育はよりキャリヤアップするためのステップであった。いまや学歴を手にしても高収入の職業につける保証はない。非正規社員にしかなれない人たちに奨学金返済の重圧がかかる。政府が公的奨学金の予算を縮小し、奨学金制度は、民営化で高利貸し化する。

 オバマ大統領は、より多くの子供たちに大学の学位を取らせる政策をすすめているが、これは結局、高学歴ワーキングプアの増大を加速させることになろう。

 第2章は、「崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う」。金融危機で倒産する企業の退職者年金、医療保険制度崩壊が続出している。「GMだけは特別だと思っていました。たとえ高卒であってもまじめに働きさえすれば、豊かな生活と老後の保障が得られる会社、GMは「古きよき時代のアメリカン・ドリーム」そのものだった」と嘆く元GM社員。

 第3章は「医療改革vs医産複合体」当初、オバマ医療制度改革ではあらゆる立場の声に耳を傾けると約束した。しかし、「単一支払い皆保険制度」の推進者は「医療改革サミット」に招待されなかった。公的保険と民間保険の選択ができるという「公的保険オプシヨン」案が提示されたが、09年11月7日、下院で可決された医療改革案からはオプシヨン案は削除され、12月24日、上院は公的オプシヨンそのものを排除し、民間保険への強制加入を定める改革案?を可決した。医療保険業界は、1日200万ドル(2億円)を費やしてロビー活動を行ったと言う。

 第4章「刑務所という名の巨大労働市場」は、衝撃的です。

 企業側は政治家への献金やロビー活動を盛大におこない、労働に関する規制は次々に緩和されていった。2005年の時点で、アメリカ国内の非正規労働者労働人口の約3割になっている。そしてさらに、・・・発展途上国の労働者よりさらに条件の良い、数百億ドル規模の巨大(労働)市場、囚人労働者に着目した。

 アメリカ国内の大手通信会社の一つ、エクセル・コミュニケーシヨン社の番号案内に電話をかけると、ほぼ間違いなくフォートワース刑務所の女性囚オペレータにつながるという。電話交換手をインドの労働者に外注した場合、初任給は月に平均159ドルから204ドルとなり翌月から昇給を開始しなければならない。

 一方、刑務所で囚人労働者を雇えば、給与は月36ドルから最大でも180ドル。福利厚生は一切ない。サービスを利用する側の国民は、電話の向こうのオペレータが囚人だとは夢にも思わないだろう。

「通信社だけではありません。非正規社員がやるような一般のデータ入力や、航空会社の電話予約係り、学資ローンのお客様苦情センターや、ジーンズや各種プリントサービスなどなど、刑務所内で作られる製品やサービスの数は年々拡大しています。」

民営化された刑務所は成長産業らしい。「ウオール街で今もっとも価格が高騰している投資信託商品の一つが、刑務所REIT(不動産投資信託)だ」という。

 いうまでもなく、米国は世界一の経済大国。その米国内で何故かくも貧困に悩む人たちがいるのか?日本も同じです。世界第2の(昨年は3位になったそうですが)経済大国で、自殺者が年間3万人以上も何故出るのか。

 3万人という数を考えてください。東京マラソンの出場者は3万人です。東京マラソンの沿道で走るランナーを見て、これだけの数の人が毎年自殺すると思ったらゾットする筈。

 貧困者の拡大というのは、米国型社会の欠陥です。90年代以降、日本政府は経済体制を米国型にし続けています。しかし、経済体制を米国型にするということは、社会も米国型になるということ。この『貧困大国アメリカ』を読んで、決して、他国の話とは思われませんでした。