なぜ日本経済はうまくいかないか(原田泰)

 自由経済を信奉する著者は、「日本経済の失われた20年」をどう評価するか。
 『日本だけでバブル崩壊後の不況がひどかったのは、日本以外ではバブル崩壊後デフレにならなかったのに、日本ではデフレになったことにある。日本以外の国はバブル崩壊後、果敢な金融緩和が成功してデフレになることはなかった。デフレになれば、実質金利が高まる。実質債務が大きくなる。実質賃金を引き上げるなどの経路を通じて、経済を停滞させる。日本のバブル崩壊後不況の真因はここにある。世界の経験によれば、バブルの損失は、それを引き起こしたことよりも、その崩壊後の対応策の失敗による方が大きい。』
 具体的には、どう失敗したか。
 『2007年1月を100として、中央銀行が直接コントロールできるマネー、マネタリーベースを見ると、2010年末でユーロ圏は1.7倍、アメリカが2.5倍、イギリスが3.5倍、スイスが2倍、中国が2.5倍、韓国が1.5倍。日本は1.1倍である。円高当然の帰結だった。』
 円高をマネタリーベースだけで説明できるか、データに当る必要があるが・・
 『財政拡大策を円高対策と呼ぶのは誤りである。円高によって生じた不況に対応するための円高後不況対策で、円高を直接抑える対策のみが円高対策である。円高対策のためには円(マネタリーベース)を増やさないといけない。
 1999年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデル教授は「財政拡大は金利上昇を招き、金利の上昇は為替の上昇をもたらす」、グローバル経済下では財政政策がGDPを拡大させないことを明らかにした。マンデル=フレミングモデルである。』
日本の成長率の低さは何に起因するかについて。
『財政拡大策という政府の投資は行われたが、民間投資が十分でなかった。民間投資が十分でないとは、カネの使い方に民間の知恵が用いられなかったということである。(民間投資を刺激する金融量の拡大が行わなかった。)』
 筆者の主張は、「経済の成長を決めるのは投資であるが、バブル後の日本の財政投資は効率的でなかった」ということらしい。
『バラマキは悪い政策だといわれているが、そう考える根拠はない。大規模な公共事業は、今では、完成後に人々の役に立つインフラを作るという目的よりも、工事費を落とすことによって人々の生活を保障するという方が大事になっている。それなら、直接人々にばら撒いてしまった方が、鉄やコンクリートがいらないだけ財政的に安上がりの政策になる。
 バラマキによって、たとえばTPPにも参加することが可能になる。貿易自由化の利益は農家戸別所得補償というバラマキのコストより大きいので、国民は利益を得られ、農家は損失を被らない。多くの人がバラマキ反対を唱えるのは、バラマキによって構造改革が進むことを恐れているからだと思う。
 日本の場合、これまでの直接給付(政府が直接何かをすることで国民に給付する。金銭給付の反対概念)には無駄が多い。「コンクリートから人へ」というかつての民主党のスローガンは正しい。無駄な直接給付より、ばら撒いてしまった方がましである。(民主党の政策に問題があるとすれば、これまでの直接給付を削らないで金銭給付予算(たとえば子供手当て)を増やしてしまったことである。)』
 政府が予算の使い方を決めるより、国民各自が自由な創意でカネの使い方を決めた方がよい結果をもたらす。これが筆者の主張らしい。
cf
http://blog.goo.ne.jp/snozue/d/20110712