奇妙な経済学を語る人びと

『奇妙な経済学を語る人びと』(原田泰著、日経新聞03年8月刊)。これは、これから経済学を勉強しようという人に最適だと思いました。

 筆者は『自由な市場』を信奉する。市場が暴走すると言われることがあるが、暴走するのは、資本主義が「他人の金」資本主義である場合のモラルハザードだ、と言う。
『資本主義には、「自分の金」資本主義と「他人の金」資本主義の二種類の資本主義がある。』(アジヤ通貨危機について言うと)台湾は前者だが、韓国は後者の典型だった。他人の金が政府や中央銀行や国際機関の資金であれば、モラルハザードもまた大きなものとならざるを得ない。
 韓国の政府と財閥の関係を端的に表現すれば、財閥が危機に陥れば、政府は中央銀行に命じてこれを救ってきた。要するに、中央銀行は、ウオン札を刷って、財閥を支えたのである。しかし、韓国の中央銀行は、ウオン札は刷れてもドル札を刷ることはできない。財閥が海外からドル建てで借り入れている場合には、韓国の中央銀行は、当然のことながら、まったく無力だった。
 筆者は、『自由な市場』という見地から、政府の金融機関救済を批判する。
 銀行の経済活動と経済全般の活動を比べることによって、銀行が経済全体にとって決定的に重要で、銀行が立て直されない限り日本経済は復活しないのかどうか考えてみたい。
中小企業の設備投資と貸し出し、総資金調達、マネーサプライの関係をみると、銀行貸し出しが伸びても中小企業の設備投資は伸びないが、マネーサプライや総資金調達が伸びれば中小企業の設備投資は伸びる。
 また中小企業の付加価値は、銀行貸し出しとマネーサプライ、総資金調達が伸びれば、伸びるがその関係は強いものではない。
 政策として考えてみると、貸し出しを増やすことは難しい。銀行に資本注入すれば貸し出しが増加するという見解もあるが、銀行に補助金を与えて貸し出しを増やすという政策が好ましいものものとは思えない。
銀行貸し出しの増大を求める議論は、資本注入⇒銀行のバランスシート改善⇒貸し出し増加というチャンネルを考えている。一方、マネーを増大させるべきだという議論は、ベースマネーの増加⇒信用乗数⇒マネーの増加である。「ベースマネーの増加がマネーサプライを増大させるという信用乗数ブラックボックスであり、そもそもマネーがどのような経路を通じて実体経済に影響を及ぼすのか不明確である」という批判もあるが、信用乗数ブラックボックスの方が銀行のブラックボックスよりもまともな政策手段と考えてよいのではないだろうか。
銀行が重要であれば、その主要な活動である貸し出しは、経済活動とも強い相関があるに違いない。銀行の貸し出しと経済活動との関係を見る。
銀行は中小企業にとってこそ重要であるということが強調されている。そこで、工業統計表の中小企業の名目付加価値と名目設備投資を取り、これと銀行貸し出しとの関係をみる。

銀行貸出およびマネーサプライとの経済活動との関係を経済大国であるG7諸国について見る(1980〜2002)。これによると、名目GDPを増やすには、マネーサプライを増やしても貸し出しを増やしても良い。
しかし、どうやったら貸し出しが増えるのだろうか。1兆円の資本注入をすれば何兆円の貸し出しが増大するのだろうか。しかも、資本注入はすべて税金であり、国民の負担である。一方マネーを増やすことにはコストがかからない。