日米関係の経済史

『日米関係の経済史』という原田泰さんの少し古い本(ちくま新書、95年3月刊)を読みました。最近、原田さんの本を集めて読んでいるのです。
黒船来航から、バブル崩壊までの日米関係を経済という切り口で解析した内容です。
 面白い話題が満載ですが、その中から一つ紹介します。
日米構造協議について。
日米構造協議は、日米ともにお互いの経済の問題点を指摘し、相互にその改善を求めるというはずのものだが、一般には米国側の要求のみが喧伝されてきた。米国側の要求は、
● 日本の貯蓄投資バランスを改善するため政府投資を拡張すること。
● 内外価格差に象徴される市場のゆがみを是正し、価格メカニズムを強化すること。
大店法の見直しを含む流通制度の閉鎖性の改善
● 土地政策の改善
● 企業系列がもたらす閉鎖性を是正すること。
● 排他的取引慣行を是正すること。
内政干渉だという日本の反発は以外に少なかった。日本の一般国民の利益になるというアメリカのたくみなプレゼンテーシヨンのためであったろう。
政府投資の拡大は、1981年来の財政再建方針により、公共投資の拡大を抑えられてきた地方自治体や建設・運輸にとっては、予算拡大のチャンスと認識された。内外価格差については、日本のカメラやフィルムが日本でよりも外国での方が安く買えるということがバカらしいと日本国民も思っていた。土地政策についても日本国民の共感を生んだようだ。
アメリカの要求の中には、確かに日本国民のためになるものも多いが、日本経済の効率を低下させるようなものも含まれている。
? の政府投資の拡張は、もちろん政府投資が懸命に使われれば望ましいことだが、そうはならないメカニズムが日本にあることを考えるといちがいに望ましいといえない。例えば、日本では地価の高いところに道路を作るのはたいへんなので地価の安いところに道路を作る傾向がある。しかし、道路がもっとも必要なのは地価の高い都市部である。
?の企業系列や?の排他的取引慣行を是正することには、多少疑問がある。系列や取引慣行には、企業の長期利益を最大にするように、時間をかけて形成されてきたものがあり、効率を向上させている可能性もある。
 
日本経済の問題点を構造協議は問題にしているのだが、アメリカの経済に問題はないのか?
 1992年のデータで、関税率は、日本の3.8%に対してアメリカは5.4%である。アメリカは、関税以外に数量規制を課したり、日本の対米輸出自主規制のように、あいまいな輸出自主規制を外国に求めることも多い。
 アメリカは、日本の経常収支黒字についても攻撃して輸出規制させているが・・・・東京大学伊藤元重教授は、輸出も輸入も海面の上に出ている氷山のようなものだという。輸出の氷山が大きすぎるからといって浮かんでいるところを削っても(自主規制したところで)下から直ぐに氷が浮いてくる、と述べている。

アンチダンピング運用のでたらめさもある。
 1969年から92年にかけて(アンチダンピングの)適用事例は746件、ECは373件、日本は4件だけである。
 SKF(スェーデンのボールベアリング・メーカー)は1989年に、アメリカ商務省からダンピング提訴を受けて15万ページ、3トンの書類を提出するが、何回も改定を要求され、ついにSKFは12トンの文書を提出することになったが、結局、商務省は180%のダンピングと認定した。

 アメリカの農業政策も問題だ。
 OECDの調査によると、国際価格よりも高い国内価格と財政支出による直接の農業生産者補助の水準は、日本の309億ドルに対しアメリカ359億ドル(1900年)。もちろん対GDP比や人口当たりでは日本よりも低いが、あれだけ広大で肥沃な耕地を持つ国にしてはあまりに大きい保護水準ではないか。
 補助金政策のために、農場経営者は、生産性の工場より「ワシントン対策」に関心を向けてきた  等々。