ハチはなぜ大量死したのか

『ハチはなぜ大量死したのか』(ローワン・ジェイコブセン著、中里京子訳)という本を文庫版(文春文庫、11年7月刊)で読みました。
 一読して感じました。「これはレイチェル・カーソンの「沈黙の春」(下記URL)のミツバチ篇だナ」。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%88%E9%BB%99%E3%81%AE%E6%98%A5
 このノンフィクシヨンは、アメリカのミツバチの間に急速に拡大しつつある奇妙な病気、CCD(Colony Collapse Disorder;蜂群崩壊症候群)について克明に書かれたものです。
 突然、ミツバチが巣からいなくなる病気ですが、ミツバチがいなくなると、何故困るか?
 この本の原題は「実りなき秋」(Fruitless Fall)。
 つまり、花粉をめしべに運ぶ授粉昆虫がいなくなれば、蜂が受粉することで実をつける作物が壊滅することになる。ほとんど全ての果樹類やキュウリなどのウリ類、コーヒーやカカオなども昆虫授粉が必要だ。まさに実りなき秋になるのです。
 書店で、この本を手に取り、読んでみようと思ったのは、田舎の友人から「ハチが少なくなった」という話を聞いた記憶を思い起こしたからです。著者もこう語る。
『09年5月に日本を訪れた私は、当時の農水産大臣、石破茂氏に、この危機的状況についてじかに話を伺う機会を手にした。残念なことに、そのとき耳にした状況はどれも聞き覚えのあるものだった――農薬に関連するミツバチの死、殺ダニ剤への耐性を獲得しつつあるミツバチヘギイタダニ。授粉用に貸しだすミツバチのレンタル料がついに二倍に達する・・・。大臣から危機を乗り切る最良の手段について助言をもとめられたとき、私は「国産」の解決策、すなわちニホンミツバチの利用を考えたらどうかと示唆した。』
内容を紹介しようとしたのですが、ネットで成毛眞さん(元日本マイクロソフト社長)が簡にして要を得た書評をしていましたので、そちらを紹介します。
http://d.hatena.ne.jp/founder/20090131/1233415202
 私は、特に印象に残った訳者のあとがきの中の記述を紹介しましょう。
結局のところ、ハチのCCDは、工業的な効率化の思想を農業や牧畜に導入したことに遠因があると思う(その意味で牛のBSEと同じ、福岡伸一さんがこの本の解説文で書いていますが)のですが、
『日本でも、冷戦体制が崩壊し、米国の主導で市場開放が進む80年代以降、農業において米国型の大規模農業を目指すことが主張された。大規模な作付け面積から、機械化によって単位面積当たりの収穫高を限界利益にまで近づけるという「工業化された農業」だ。そして農地の集約をうながすための政治的施策もとられてきた。
 しかし、結局は、日本の狭い国土のなかで、規模の経済を働かせ価格面で国際競争に勝とうなどというのはどだい無理なことだ。柑橘類をはじめさまざまな作物が自由化されていったが、結局日本の農業で生き残ったのは、そうした大規模作付けの作物ではなく、山県のサクタンボ、青森リンゴなどその土地土地の地味を生かしつつ、丹精をこめて作っている作物だ。』