宇宙は本当にひとつなのか

『宇宙は本当に一つなのか』(村山斉著、講談社新書、11年7月刊)を読んでみました。「ニュートリノが光より早かった」という実験が話題になり、宇宙科学最先端の話題を知りたくなったのです。「暗黒物質」、「暗黒エネルギー」が興味深々でした。
 まずは、「はじめに(前書き)」から
【私たちは学校で、万物は原子でできていると習いました。ですが、その原子は宇宙全体の5%にもならないのです。ここで疑問になるのが、残りの95%は何なのか。実は約23%は暗黒物質で、約73%を占めるのが暗黒エネルギーなのです。全部足すと誤差の範囲でちゃんと100%になります。暗黒物質も暗黒エネルギーも、名前はついていますがその正体はわかりません。】
暗黒物質という考え方が最初に提起されたのは1933年のことです。銀河団の中の銀河の運動を観測したフリッツ・ツビッキーが、最初にそういった。
最近の観測では銀河団のほとんどが暗黒物質でできているそうです。どうしてそれが分かるのか?重力レンズ効果を利用して、暗黒物質の分布が分かります。重力レンズ効果とは、アインシュタインが予言したもので、光は重力に引っ張られて曲がる。そのため、遠くにある銀河や星の光は変形して地球に届く。この重力レンズ効果が、今は正確に測定することができるようになったのです。
暗黒物質の(分布)地図作りではっきりしたことは、暗黒物質は原子ではない、つまり、宇宙にある物質の8割以上は、原子ではないということです。】

第4章で暗黒物質を論ずる。【暗黒物質は、ニュートリノ以上に、他の物質と反応せずに、地球などもすぐに通り抜けてしまう物質です。電子やニュウトリノと同じような小さな粒々の粒子だとおもいますが、反応はしない。重い素粒子と想像されます。】
第5章で暗黒エネルギーを論じます。
【暗黒エネルギーは暗黒物質と並んで、宇宙を作るものの中で正体がわかっていないものです。正体不明のエネルギーなので、暗黒エネルギーといっています。暗黒物質のほうは、10年以内にその正体が明らかになるのではないかと期待が持てるようになってきましたが、宇宙の全エネルギーの73%を占めると考えられている暗黒エネルギーは、まだ糸口がつかめていない。
今のところ、私たちは暗黒エネルギーを見ることも感じることも出来ません。しかし、宇宙のエネルギーの約四分の三を占めているものが、どこか一部の場所に偏って存在するとはあまり考えられないので、私たちの周りに既に存在するはずです。
暗黒物質も、暗黒エネルギーも、それがどんなものか分かっていないのに、物質とエネルギーとに分けているのはなぜか。一番の違いは、宇宙が大きくなると暗黒物質は普通の物質と同じように薄まるのに対し、暗黒エネルギーは薄まらない。暗黒エネルギーを発見するきっかけは非常に遠くの宇宙で起きた超新星爆発です。】
 超新星の観測から宇宙は常に膨張し、その膨張速度は速くなっていることが分かりました。
【宇宙には、目に見える星や銀河などより、目でみることの出来ない暗黒物質のほうが多く存在します。ところが、宇宙が広がっていけば、その分薄まっていきます。そうなると、宇宙のなかのエネルギー密度が低くなり、宇宙の膨張速度は遅くなると、物理学者は考えていました。ところが、観測結果はそうでなかった。宇宙が大きくなるにつれて、どこからともエネルギーが湧き出てくる。何故そうなるのか。それは宇宙が大きくなっても薄まらない何かがある。それを暗黒エネルギーと名づけた。】

暗黒物質、暗黒エネルギーの追求は、理論物理学の基本理論に関係するようになりました。宇宙に働く力を分類していくと、重力、電磁気力、強い力、弱い力の四つに分けることができる、という話は耳にしたことがあるとおもいます。強い力、弱い力とは、正確には、強い核力、弱い核力です。原子核よりも小さな距離でしか働かない力です。

【宇宙の研究は、宇宙は3次元空間と1次元の時間の4次元でできていて、しかも一つしかないということが前提になっていました。しかし、研究を進めていくと、宇宙は、どうやら違う姿をしているらしいことが分かってきた。多元宇宙という言葉には二つの意味があります。
一つは多次元宇宙、空間は3次元ではなく、もっと次元が多いという宇宙論。もう一つは、多元宇宙、宇宙は一つでなく複数あるという宇宙論です。】
まず、多次元宇宙について。
【何故、多次元宇宙が存在すると考えるのか?宇宙は多次元だと言ったのは、1921年、数学者のテオドール・カルーツア。そして1926年に物理学者のオスカー・クラインも異次元があると唱えました。
二人は何故そう主張したのか。アインシュタインの成し遂げられなかった夢、力の統一理論、電磁気力と重力を一緒に説明できる理論、を完成するためでした。
重力は電磁気力と比べてとても弱い(重力の大きさを1とすると、電磁気力は10の36乗)。片方はものすごく弱くて、もう片方が凄く強いという二つの力を同じように説明することは出来ない。しかし、5つ目以上の次元があれば、例えば、重力が5次元に向かうことが出来るが、電磁気力は5次元には行かないと仮定すると、重力の弱い力が説明できる、という形で統一理論が出来るかもしれないというのです。実際1998年こうした理論が発表され、研究者に衝撃を与えました。】
そこで私は思うのですが、『空間が3次元であるというのは、人間の感知能力では3次元までしか感知できないという意味であって、空間が絶対的に3次元であるということではない(「ひも理論」という最新の物理の理論では宇宙空間は9次元だという)。4次元以上の空間で働くエネルギーを把握できていないので、残りの95%は何なのか、分からないのでは?』
多元宇宙論については(これも興味深いのですが)割愛します。

結局、現在、暗黒物質について物理学者のやっていることは、暗中模索。実験や観測で得られた事実をつなぎ合わせて、矛盾がないような説明を考えているのです。
 興味深い話題、満載の本でした。