長寿遺伝子を鍛える

『長寿遺伝子を鍛える』(坪田一男著、新潮文庫12年1月1日刊)を新年早々買い求めて読みました。
 筆者の坪田さんは慶応大学医学部眼科教授。視力再生手術(レーシック)の専門家。日本抗加齢医学会副理事長だそうです。眼科の先生が、何故長寿の研究?読み進んでいくと分りました。
【皮膚科や美容の世界では紫外線は完全な悪者である。・・日常的に光を浴びている部分は老化しやすく、戸外で働く人やヒマラヤ近辺の山岳民族の人々は、光を多く浴びるせいで肌の老化が進みやすい。】
 紫外線に含まれる活性酸素が老化の原因となる。
 【衣服を着たり日焼け止めクリームを塗れたりする肌はまだいい。目はそうはいかない。目は、光を取り入れるのが仕事だ。目の中心が黒いのも、光を集中的に集めるためである。そのため紫外線から逃れるのがもっとも難しく、もっとも被害を受けやすい部位といえる。
 そのため、活性酸素から自分を守るシステムは他の部位より発達している。目の水晶体とそれを囲む房水などは、体中でもっともビタミンC濃度が高い部位だ。】
 さて、本論です。
長寿遺伝子なんてものが、本当にあるのだろうか?
しかもそれを「鍛える」とはどういうことか?
 実は、20世紀末ごろから、医学的に寿命と老化を研究するアンチエイジングの分野では、驚くべき新発見が次々となされている。本書は、その「アンチエイジング」の最先端を、分かりやすくかつ正確に記述しています。
 【よく「腹八分目」という言葉があるが、マウスの実験では「腹7分目」だと長生きするのだという。カロリー制限により、それまで眠っていた長寿遺伝子のスウィッチが入るからだ。】という解説、この本のポイントをついています。
【1935年、非常にユニークな発想を持つ人物が現れた。米国コーネル大学の栄養学者、クライブ・マッケイ博士である。彼は実験用マウスの摂取カロリーを65%に制限するという実験を行った。その結果、平均寿命が2倍近くに延びることを発見したのである。マッケイ博士の発見は、寿命やエイジングの謎を解き明かす最初の一歩だったが、当時は誰も注目しなかった。・・動きがあったのは、1980年代後半以降のことだ。
 線虫、ハエ、マウスなどを使った動物実験が行われて、「カロリー制限によって寿命が長くなる」という事実が、生物学、免疫学、医学など、幅広い分野で知られるようになっていく。線虫、ハエ、マウスと聞くと、人間とは程遠い動物だと思うかもしれないが、遺伝子の70%以上は同じものだ。それに霊長類であるアカゲザルを使った米国ウィスコンシン大学で80年代から始まった20年にわたる実験結果が2000年に発表されたが、ここでもその効果は明らかである(普通のエサを与えたグループと、ビタミンなどの栄養は保ちながらカロリーだけを30%制限したグループを比較研究)。長寿に関係する遺伝子があって、その遺伝子は「粗食」の時、スィッチオンになるというのです。
 長寿大国日本の中でも、平均寿命第1位を誇っていた沖縄県。ここは100歳以上の長寿者が飛びぬけて多く、世界4大長寿地域の一つとしてもしられている。彼らの長寿の理由の一つといわれているのが、「粗食」だ。
 そんな沖縄にもついに異変が起きた。2000年の調査によれば、女性の平均寿命は相変わらず全国第1位だったが、男性の平均寿命が第4位から26位と大暴落してしまったのである。調べてみると、終戦直後の沖縄の人々のカロリー摂取量は本土の約80%だったが、2000年には全国平均を上回る106%に上がっていたことがわかった。】
 「粗食」である人、換言すると、カロリー制限(カロレス)している人は、サーチュインという長寿の遺伝子のスウィッチがオンになる。カロリー制限とダイエットとは違う。「カロリー制限」とは、あくまでも蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといった栄養のバランスをしっかり保ちつつ、総摂取カロリーを通常の70%程度に減らす、単にカロリーを減らしさえすればよいのではない。
 人類100万年の歴史は常に飢餓と隣り合わせの時代だった。現在のように豊かな食生活を遅れるようになったのは、わずか50年前。つまり99万9950年は「脂肪を貯める」ことが、何より優先すべき課題だった。 
 メタボとは、内臓脂肪を溜め込んだ状態である。食べ物から摂取した糖を効率よく吸収して、脂肪として蓄積するには、インスリンが必要なのだが、インスリンは周りに生きるための食べ物が十分になかったときや、飢餓に陥る危険性があったとき、一気に栄養を溜め込むために必要なホルモンだった。内臓脂肪をためることで、寿命を延ばすという遺伝子の長寿戦略が、その同じ機能によって現代においては、老化を早め、長寿を妨げている。人類の身体は「粗食」の時に、もっともうまく適応するように出来ているのだ。
 そのほか、運動が長寿に及ぼす影響にも、詳説していますが、割愛します。
 長寿の秘訣を科学的に解明したい方には、お値打ち(¥490+税)な本です。