乾山晩愁

葉室麟著『蜩ノ記』が話題になっていますので、読んでみようかと、県立図書館に行ってみると、やはり貸し出し中で予約も入っているようです。そこで、葉室麟の棚を観たら『乾山晩愁』なる本が目に留まりました。
 どうやら葉室麟の処女作らしい。05年10月新人物往来社刊で、「乾山晩愁」は、平成17年の第29回歴史文学賞受賞作品とのことです。 作家は処女作に向かって成熟する」 (亀井勝一郎の言葉だそうです)と、言いますから、「これっ読んでみよう」と借りてきました。
 安土桃山から江戸時代の絵師を各章の題材にとった連作です。
 巻頭は、『乾山晩愁』。乾山は、緒方尾形光琳の弟、尾形乾山です。以下、
第2章は『永徳翔天』で、「洛中洛外図」の狩野永徳
第3章は『等伯慕影』で、狩野家に挑戦する長谷川等伯
第4章は『雪信花匂』で、狩野探幽と閨秀作家雪信(探幽の姪の娘)。
第5章は『一蝶幻景」で、英一蝶を題材にとっている。
 この章は、赤穂浪士芭蕉・其角、柳沢吉保などを巡る秘話です。
 第1章『乾山晩愁』で主人公らの世間話に赤穂浪士が出て、最終章が赤穂浪士の秘話で平仄を合わせています。
 この連作小説は、「あとがき」で著者の述べているように、絵師は権力者の傍らに近侍して生き方そのものが「修羅」でることを、描いています。

 著者は昭和26年、小倉生まれという。よくまぁ、昔の画家の秘話を掘り出したものと感心、隙のない文章で、直木賞受賞も宜なるかなと思いました。歴史小説界の新しい才能です。