世界経済危機 日本の罪と罰

『世界経済危機 日本の罪と罰』(野口悠紀雄著、08年12月刊ダイヤモンド社)に目を通しました。 まず【 】内に、著者の結論部分を引用します。
 著者は今の世界経済をどう見たか。
【「アメリカの投資銀行モデルは崩壊した」と言われる。たしかに「巨額の借り入れで投資額を膨らませてリスクのある対象に投資する」という90年代以降の投資銀行モデルは破綻した。しかし、その反面で、日本の輸出立国モデルも破綻したのだ。この二つは、同じ現象の表と裏である。】
【円・キャリー取引でアメリカに流入した資金が、サブプライム・ローン関連金融商品に回った可能性は十分にある。】
【日本はデフレ脱却と称して異常な低金利政策を継続した。その結果、世界経済にゆがみを与えるような事態を招いてしまった。】
【(日本の)超金融緩和政策の真の目的は、デフレ脱却というよりは、円安誘導であった。円安誘導政策の目的は、言うまでもなく輸出関連企業の利益増大である。】
【日本の中核産業である輸出産業は、政治や世論に対する影響力が圧倒的に強い。それゆえに日本は円安を望むバイアスを持っている。】しかし、日本は円安に頼るのでなく、
【日本経済が今回の危機を乗り越えるには、為替レートが60円台となっても収益が上がる産業構造をつくること、資本面で国際的に開かれた国とすることだ。】
たとえば、95年ごろまでは目立った介入がなく、為替レートはほぼ金利平価式どおりに推移した。そこで、介入前のレート(1ドル90円程度)が正常だと考えよう。すると、日本の物価上昇率の差を反映して、年率3%の円高が続かねばならない。これが13年間続けば、現在では1ドル60円程度にならねばならない。(実質実効為替レート)
また
【モノの輸出でなく、カネの運用によって国を支える時代においては、ファイナンスの手法を習得し、対外資産の収益率を高めることが重要な国民的課題となる。】
 モノ作りに成功した日本は、工業製品の関税で、輸入関税のもっとも低い国の一つになった。同様に、これからの日本が資本収支で稼ぐ国になるとしたら、資本面でもっとも開かれた国にならねばならない。

この意味においては、小泉構造改革はまったく役立たなかった。
それは、日本経済の古い構造(輸出依存型経済構造)を、円安と派遣労働の解禁によって、保存するものであった。
「改革によって日本が変わった」という【説明はまやかしにすぎず、日本経済の実態は古いままだった。輸出増は、日本の輸出産業の真の競争力増強によって実現したものではなく、輸出量の拡大(米国と中国の好景気で)と円安によって日本の輸出産業の価格競争力が実力以上に高まったことによるものだったのだ。】

ファイナンスについて言うと、小泉内閣当時、国民に金融の知識を教育せよという声すらあった。これも全くの誤りで、金融知識の乏しい市民のために金融機関があることを忘れた論である。
【企業に対するリスクマネーの供給が必要なことは間違いないが、そのリスクを家計が直接負うべきではない。金融仲介機関はリスク転換機能を担いうるのであり、彼らが家計に対してできるだけリスクの低い資産を提供すべきだ。】
 1ドル60円といっても、生じたのは、円高でなくドルの減価である。
【金を価値の基準と考えれば、生じたのは「ドルの減価」であり、原油も農産物もさして価格が上昇したわけではない。】
 ドルの減価で、上昇する食料価格に対して自給率の向上は有効でない。
【食料の安定供給を確保するためのもっとも確実な方策は、自給率を上げることではなく、供給源を全世界に分散することである。】

この本は、結論は特に目新しいものではないが、豊富な図表での説明で納得させられる。巻末に図表目録と、「データへの道案内」としてデータ源のインターネットのURLを付している。この巻末資料で、資料のデータその後の推移を確認できます。