星火瞬く

 先日話題に上った葉室麟の本を図書館で見つけ、借りて読みました。『星火瞬く』(講談社、11年8月刊)です。
 安政6年、シーボルトの再来日に同行した彼の息子アレクサンダー・シーボルト語り部になり幕末の日本を語る小説です。
 ロシヤの軍艦ポサドニックが対馬に来航した。水兵を上陸させ、対馬藩に食料・資材を要求しつつ、藩の抗議を無視して、兵舎や修理工場の建設、井戸の掘削などをはじめる。江戸幕府から外国奉行小栗忠順(ただまさ)が、現地に赴き対応する。
ロシヤのアジヤでの勢力拡大を警戒する英国の公使はオールコック。英国公使館は、高輪の東禅寺に置かれていた。
浪士の東禅寺襲撃事件が起きる。
 日本に滞在していたロシヤの革命家バクーニンが出没する。
 シーボルトは推理します。
 「対馬を占拠したロシヤを追い出すことが出来るのは英国だ。英国と幕府が結びつかないように、英国公使館をローニンに襲撃させたのは、バクーニンの策略だ。」
老中安藤信正は、対英対ロに対等に交渉できる幕府にしようと、長州藩長井雅樂の「航海遠略策」に期待をかけるが、勝海舟は別策を模索する。
 こうした物語。幕末の日本を、時には当時の為替相場にもふれながら、描いています。
そのほか、清河八郎高杉晋作、ジョセフ・ヒコ(米国に漂流し日本に帰国した通訳)などが活躍する小説です。
こう筋書きを追ってみて、作者が幕末の事件を丹念に拾い起こし、組み合わせてストーリーを作り上げていることに、脱帽!歴史小説の才人であることを認識しました。1951年生まれ、05年に『乾山晩秋』で作家デビューは、遅咲きと言うよりも、小説家に求められる人生経験を十分に積み重ねてのデビューということかもしれません。