生物多様性について考える

 週刊朝日に「池田教授の机上お砲弾」という連載を寄稿している池田清彦さんが、「生物多様性について考える」(中公選書)を刊行したと聞き、取り寄せました。
 「生物多様性」って言葉、よく聞くんだけどどういう意味?と問われると答えるのが難しい。改めて考える。「生物多様性に関する条約」で聞くのだが・・・そういえば一昨年、名古屋でCOP10なる国際会議が開かれた。COPとは、生物多様性に関する条約締結国会議の意味らしい。
生物多様性」は、英語ではBiological Diversityのlogicalが取れてBiodiversityになったらしい。その分ロジカルでなくなったかもしれない。
今日、ワシントン条約やCOP協定など生物多様性に関する国際協定があるが、必ずしもロジカルでない部分もある。
池田教授の解説によると、「生物多様性」には三つの意味がある。種の多様性、遺伝子の多様性、それに生態系の多様性だ。
「種とはその構成員が自然条件の下で自由に交配でき、他のそうした集合体から生殖的に隔離されている集合体」ということだ。

ラムサール条約は、1971年に採択され75年に発効した。ラムサール(イラン)で採択されたことからそう呼ばれるが、正式名は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」で、日本は1980年に加盟した。水鳥の多くは渡り鳥であるため、一国で保護をしても渡っていった先の国で保護されなければ個体数は維持できない、国際的に湿地の保全が必要であるとの認識からできたもの。
1986年に「生物多様性」というコトバが提唱され特定の生物のみならず、基本的にはすべての生物種を保護すべきという認識が強くなるに及び、ラムサール条約は、鳥類の保護のみならず、湿地環境の保全自体を目的とするものにその理念が変化した。
CITESは1973年に採択され、1975年に発効した条約である。「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」で、採択された都市の名からワシントン条約とも呼ばれる。日本は1980年に締結国となった。
ラムサール条約が生態系保全のための条約なら、CITESは種の保存のための条約である。
この条約の付属書1に載る種は絶滅のおそれが最も高いとされ、原則として商取引が禁止。学術目的の取引であっても、輸出国・輸入国政府の発行する許可書が必要である。先年、モナコクロマグロを付属書1に載せる提案をして議論を呼んだのは記憶に新しい。
ラムサール条約やCITESは「生物多様性」という語が一般的になる前に出来た条約だが、1987年から国連環境計画が準備し、数度の会議を経て、1992年、リオデジャネイロでの地球サミットで調印、1993年に発効した「生物多様性条約」は、生物多様性を巡って各国が政治的な駆け引きをする重要な舞台となった。
この条約の第一条は「生物の多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分をこの条約関係規定に従って実現することを目的とする。・・・」とうたう。
実際、COP10の最大のテーマが、「遺伝資源への"アクセス"とその利用から得られる"利益の配分"(ABS)」に関する「名古屋議定書」。例えば,議定書の適用範囲の点では,植民地時代に先進国が入手した遺伝資源も対象とすべき(遡及適用)と主張する遺伝資源の提供国(アフリカ諸国)と,先進国を中心とする利用国が激しく対立しました。
アメリカが「生物多様性条約」をいまだ批准していないのは、バイオテクノロジーの発展の結果、遺伝子を少し組み替えるだけで特許が取れて、アメリカ企業が大きな利益を得られるようになり、この条約を批准すると原産国に利益を配分せざるを得なくなることを恐れたからだ。
日本では2008年に議員立法として成立した「生物多様性基本法」があり、具体的には「種の保存法」や「外来生物法」が制定された。
この外来生物について、例えばブラックバス
ブラックバスに適した生息環境がある限り、いくら駆除してもすぐに元の水準に戻る。ブラックバスは原産地の北アメリカでは重要な水産資源である。日本でも1925年に神奈川県芦ノ湖に導入された当時は、高級魚としてもてはやされ・・・、現在でも琵琶湖博物館芦ノ湖畔の料理店ではブラックバス料理を客に供している。

余談ですが、そういえば「セイタカアワダチソウ」という外来種の野草がある。最近はあまり話題にならないが・・・歌もあった。
http://www.youtube.com/watch?v=XlDlNsL3c7s

遺伝子の多様性について、何年ぐらい前だったか、この本でも述べています。
【遺伝子汚染という話でまず最初に私がびっくりしたのは、和歌山県でタイワンザルとニホンザルの交雑固体が見つかって、交雑固体とタイワンザルを捕獲して殺処分にすると和歌山県が決めた、というニュースを聞いた時だ。和歌山市海南市付近に生息するサルの中にタイワンザル及びタイワンザルとニホンザルの混血固体がいて、元は付近の動物園「いたタイワンザルが野生化したことから始まったという。一部の保全論者は、これを遺伝子汚染といって騒ぎ立て、県は税金を使って、タイワンザルと交雑固体を捕獲しては殺している。・・・遺伝子汚染を防ぐメリットと、莫大な税金を使って高等動物を殺戮するデメリットを比較すれば、デメリットはメリットをはるかに凌駕する。・」
種の交配はむしろ遺伝子の多様性を増すのではないだろうか?と思います。

以上、あれこれ「生物多様性」について勉強しました。
この本は「生物多様性」に関する良い教科書です。