原発危機 官邸からの証言

原発危機 官邸からの証言』(福山哲郎著、ちくま新書、12年8月刊)を読みました。
 筆者は、民主党参議院議員菅内閣官房副長官として震災対応に当たった。その震災対応の経緯を語った書です。
 以下、印象に残った箇所です。
 3月14~15日、フクシマは危機的な状態に落ちっていた。東電から官邸に現地からの「撤退」が申し入れられた。後日、このときの「東電の意志が全面撤退だったか、一部退避だったか」が問題になった。
 著者は、当時の官邸にいた当事者に「一部退避」と受け止めたものはいなかった。そのくだりがこの本の前半に縷々語られています。
 『撤退拒否の場面で官邸で時間をともにした藤井官房長官が、高齢を理由に辞任した後、4月19日に私の執務室に立ち寄った際、私はこのように声をかけてもらえた。
「福山君、菅はいろいろ言われているけど、東電の撤退を止めただけで日本の戦後の総理の中では間違いなく真ん中より上にいくぞ。あの撤退を止めたことだけでも菅直人は総理として仕事をした。僕はそう思っているよ。・・」』
 官房長官の発言
『「ただちに人体に影響を及ぼす数値ではない」
という枝の官房長官の会見における放射能の評価についての発言は、官邸発の情報に対する国民の信頼を損ねた象徴的な言葉として批判された。
 事故当初の放射性物質の発生量は、原発の近くに長時間いない限り、すぐには健康に影響を及ぼすレベルではなかった。・・・一方で、将来にわたって人体に影響を及ぼさないと言い切れるものでもなかった。
 この表現は、ごく軽微な放射性物質健康被害の可能性について言い表すためには、正確かつ率直な言い方だったと思う。
 しかし、受け手には「ただちに及ぼさないということは、一定の時間が経てば人体に影響を及ぼすのか」という疑問が生じた。また、「すぐに影響の出ない低線量被爆の危険性について何も言っていないに等しい」と、かえって「政府は情報を隠蔽しているのではないか」との疑念さえ抱かれた。
 では、どうすればよかったのか。
 一部の指揮者が提案したように「科学的な学説の範囲を示し、政府の見解を示した上で、あとの判断は国民に任せる」という選択肢もあるが、はたして現実的だろうか。』(私は唯一の現実的な方法だったと思う)。
エネルギー政策の選択肢
『(政府は)国民に3つのエネルギー政策の選択肢を提示した。(中略)
この3つの選択肢では原発の比率ばかりが注目され、焦点化されてしまうが、それぞれのシナリオに共通するふたつの内容が含まれている
 第一に、どの選択肢を選択しても、再生可能エネルギーの割合は2030年に25~30%であることだ。再生可能エネルギーの比率をここまで高めるには、いずれにせよ小手先の改革では実現しない。
 固定価格買取制度による市場拡大と価格低下、技術革新の加速、再生可能エネルギー産業の育成、分散型エネルギーシステムの促進は不可避であり、・・・原発の比率にかかわらず、再生可能エネルギーは協力に推進していくというメッセージだ。
 第二に、どのシナリオでも、2030年の発電力量は2010年比で約1割の節電、最終エネルギー消費量で約20%の節約を見込んでいる。省エネ国家への道は必須条件になる。特にスマートグリッドの普及による需給調節機能は不可欠の技術である。』
 日本は今後どうすべきか。そこには、「どういう技術開発を進めるか」を視野に入れた国家戦略が必要だと思います。