本当の経済の話をしよう

『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書、12年8月刊)を読みました。若田部昌澄早大教授が評論家の栗原裕一郎氏の質問に答えるという形式で、現下の経済問題を解説する本です。
 面白いと思ったのは、「インセンテイブ」、「トレード・オフ」、「トレード」、「マネー」の4つのキーワードで、経済学は理解できると述べていることです。
 トレードのひとつ、「TPP」についての章を例にとって、どんな本か、紹介します。
【TPPそのものは、関税撤廃という貿易の自由化と、共通のルールづくりの二点につきる。
 トレードが重要なのは、トレードする双方に利益を生む行為だからだ(リカアードゥの「比較優位説」)。
 あらゆることに長けたAさんと、何をとってもAさんにはかなわないBさんがいたとして、じゃぁ、Aさんが全部やってしまったほうがいいかと言うと、実はそうではない。AさんとBさんが分業したほうがお互いにトクをするし、全体としても生産性や能率が上がる。『人間活用の原理』(それを国と国との貿易関係に適用した)を説いたものが比較優位説なんだ。
 若田部先生は、比較優位説の観点から、TPP参加大賛成の立場。
『TPPは参加国が自由貿易についてのルールをつくる場なんだから、いち早く参加して、自国の利益になるように交渉を持っていかなければいけない』と説く。
 しかし、今の日本政府の交渉力で、日本に有利なルールづくりが出来るのか、私は疑問に思うが、先生によると、『実をいうと、日本はアメリカからはすごいタフな交渉相手国と見られている』と述べている。この点、具体的にどのようにタフだったか、説明してもらわないと、私には信じがたい。
 若田部先生は、中野著『TPP亡国論』を槍玉に挙げる
【中野氏の反TPP論の骨子は5点に絞られる。
? 自由貿易が経済成長に結びつく保障はない。(日本の関税率はすでに低く、さらに「開国」することに意義はない。)日本の輸出はGDPの二割。内需の拡大をめざすべきだ。
? グローバル化した世界において、国内市場を保護するためのもっとも強力な手段は、関税ではなく、為替である。
? 自国がデフレ下にある時の貿易自由化は避けるべきだ。貿易が自由化されると安価な製品が流れ込み、賃金は下落し国内雇用も失われてデフレがさらに進行する。
? トレードは互恵的であるという比較優位説は可能性の話に過ぎず、現実には国際政治的なパワーが関与する。石油やレアアースのような売り手独占の「戦略物資」は政治的圧力になる。
? 日本に必要なのは、戦略的思考だが、日本がTPPにおいて有利な交渉を展開できる見込みは少ない。
栗原『貿易収支赤字を削減するため、輸出を伸ばす必要に迫られたアメリカが採った策略がTPPであり、ターゲットに据えられたの日本の市場である・・・』のでは・・(小生もそう思います。
以下、若田部先生の反論。
?自由貿易が利益をもたらすことの歴史的証拠は、他でもない、この日本・・
内需」と「外需」を区別することが理解できない。どちらにせよ日本の作り出す財やサービスへの需要でGDPに寄与して所得になる。
(私の意見は、外需で獲得できるドルが年々減価することが問題と考えるのですが・・・)
?関税より為替が重要だというのなら、TPPで関税が撤廃されてもかまわない。
(そうですが、TPPは日本にとってたいしたメリットにならない、と言うことにもなる。)
?デフレ、インフレ及び円高はTPPとは別の問題(輸入するモノの値段が下がるが、お金の価値はそのまま。デフレは物価総体に下がる(カネの価値が上がる。))で、トレード・オフはないから、それぞれに政策割り当てをし、解決すべきだ。
?TPPはまさに、中国などがこうした横暴な振る舞い(レアアースのような)振る舞いができないようにするルール作りだ。
? 日本は外国からはタフ・ネゴシエイターと思われている。

TPPについて、私が最大の問題と考えるのは、自由な取引の拡大といっても、ルールのない自由取引はありえない。そのルール作りに、日本が交渉力を持たないのでは?
 この展について、この本の筆者はまことに楽観的(楽観的過ぎる?)です。
追伸:TPP亡国論については下記参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/snozue/20120618