日本の転機

ロナルド・ドーアさんが新刊を出した。『日本の転機――米中のハザマでどう生き残るか』(ちくま新書、12年11月刊)です。
ドーアさんの著書については、1年ほど前に紹介しています。
http://d.hatena.ne.jp/snozue/20111120
 この本を著してから一年。原発事故以来1年半、日本の大変動を踏まえて、「日本はかくあってほしい」と書くのだが、日本経済と日本社会の構造を専攻するドーアさんは、日本政府の目に余る米国追随が気になってならないようだ。
 『厳しい現実をもう少し直視すれば、米国への従属的な依存が、永遠に有利な選択肢ではありえないという結論にしか到達しえないはずだ。そのことに気付けば、現在の核不拡散体制に代わる新しい核兵器管理体制を提唱して、米国との軍事同盟をゆるやかに解消することは、日本の安全保障にとっても、日本の国際的名声にとっても「人類の進歩」にとっても、豊かな実りをもたらしてくれるように思う。』が結論です。
面白かったのは、核の傘、及び核兵器管理体制についての言及です。
『冷戦時代を通じて、米ソが戦争せずに共存してきた理由は、ソ連も米国も「抜き打ちの先制攻撃で、相手のミサイルを全部一変に破壊して、自国だけがつつがなく生存できることはありえない。核戦争には勝利者がいない」という共通理解をもっていた。核保有国のほかにも、・・・核の傘のおかげで核攻撃による攻撃に関しては安心できる。「報復の確実性」の恩恵をこうむっているからである。
ところが、その恩恵のない国がある。北朝鮮である。北朝鮮が米国に攻撃されたら中国が代行報復するかどうかは確実でない。そのため自前の核兵器を作った?』
 核拡散防止条約(NPT:安保常任理事国の5ヶ国のみが核を保有し、他の国には核の保有を許さない)について、こう述べる。
 『現在のNPTに代わって、筆者は「敵国から攻撃されたときに報復する」という条約を世界中の国が締結する。そして日本にその提案を期待する。』
 つまり、ドーアさんの言う意味は、核兵器開発をやりたい国にはやらせる。しかし、その国は、核を保有しない少なくとも3ヶ国と「貴国が核攻撃された場合、攻撃国に対し、報復の核攻撃を行う」条約を結ぶ。つまり、核の傘を提供することを義務付けるという。
 奇想天外のアイデアですね。でも、今の日本政府がそんな提案国になるなんて考えられません。
 しかし、私は思うのですが、こういう問題もあります。
核兵器のない世界の実現を謳ったオバマ大統領のプラハ演説、「国と国の政府の間では、条約によって、核兵器の使用を禁ずることが出来るのだけれど、政府でないテロ組織の核使用は防止できない」。この現実の前に、「核廃絶しかない」とオバマは考えたのでしょう。

ついでながら、日本の対米追随の一例として、普天間問題についての著者の一言。
 『「思いやり予算」というのはその一部でしかないのだが、2011年に日本の国庫から米軍基地の維持のために米国に払った総額は実に6911億円に上った。そのおかげで米国にとって、普天間はなけれは困る、安上がりの海兵隊基地になった。普天間基地を存続させるために、日本国内の親米派がワシントンからのサポートを受けて、鳩山内閣を「宇宙人内閣」と揶揄して倒すことに成功した。』
 尖閣について、あれほどの姿勢を示す石原前都知事が、終戦から67年も経とうというのに、外国の軍隊が日本の国内に駐留する現実に一言も言わないのは何故だろうか。日本の政治家は、100年経っても外国軍隊の国内駐留を認めるつもりなのだろうか。
追伸:書名の由来は次のニュースにある。
2012年8月15日に米国のシンクタンクから元国務副大臣アーミテージの報告書が出た。産経新聞の報道によると、
日米同盟に関する報告書の要旨は次の通り。
『日本は一流国家であり続けたいのか、二流国家で満足するのか決断を迫られており、重大な転機にある。』
 アーミテージが考える「日本の転機」とドーアさんの期待する「日本の転機」とは、もちろん正反対でしょう。