[]福島第一原発 真相と展望

 『福島第一原発 真相と展望』(アーニー・ガンダーセン著、集英社新書、2012年2月刊)を読みました。著者は、1949年生まれの原子力技術者、原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わったという。
 読んでみようと思ったのは、原発事故に関する政府や東電の発表は、都合の悪いことは公表していない?と思われてならない。今世紀最大の歴史的事件になるであろうフクシマの真実を知ろうとおもったら、いろいろな立場の人の意見を知る必要がある。そこで、米国の原子力エンジニアの手になる本書を手にした次第です。
以下、同書から。
廃炉放射性廃棄物」という章の「核燃料取り出しという難問」なる項。
【今の状況下で圧力容器や格納容器から核燃料を取り出す技術は存在しません。もちろん、人間は入れず、すべてを遠隔操作せざるを得ませんが、あれほどの放射能のもとで、長時間にわたって正常に動作してくれるカメラが必要・・・さらに一度使用すると機器自体が汚染されて線源となり、メンテナンスさえ危険・・使い捨てにせざるを得ないでしょう。
直径10mもある格納容器の床から溶融した核燃料を剥がす方法は、誰も思いついていません。1本の燃料集合体には約172キロのウランが含まれていますから、1〜3号機の原子炉だけでも約257トンのウランを回収しなければなりません。格納容器の蓋から底までの高さは35mもあります。その距離から遠隔操作のクレーンを用いて、溶融し金属と混じった燃料を探し出すのです。
日本が直面している課題を解決するテクノロジーは、まだ存在しません。・・核燃料は冷却のため水没させていなければなりません。単純に考えれば、コンクリートと結合した核燃料を引きはがす水中ロボットが必要となりますが、困難を極めます。】
【1〜3号機では原子炉の蓋を外さなければなりません。・・・スリーマイル島事故では、メルトダウンが起きたものの核燃料は圧力容器を貫通せずにそこに残っていました。それでも蓋を開けて核燃料を取り出す技術を開発するのに10年かかりました。1980年代の物価で1600億円が必要だった・・】等々・・
深刻な健康被害」という章があります。
アメリカの規制ガイドラインによると放射能の99%は水に留まっている計算です。ただし、これには水が沸騰していないという前提です。福島第一原発は冷却機能を失い、水が沸騰したため除染係数がなくなりました。つまり、1対99から99対1になるのです。水が沸騰していれば、入ってきたものは出ていきます。
放射線の生体への影響については、「外部被曝」と「内部被曝」に分けて考えるのが通例です。外部被曝とは放射線を体の外側から浴びることを、内部被曝とは放射性物質を呼吸によって吸い込んだり、汚染された飲食物を摂取したりして、体の内部から被曝することを指します。
また、一度に大量の放射線を受けることによって生ずる「急性障害」と、急性障害を起こさない程度の放射線によって、後に健康への影響が表れる「晩発性障害」に分けられます。多数の細胞が機能を喪失し症状がすぐに表れる急性障害については、一定の被曝量以上でなければ症状が現れない「閾値」が認められています。一方で、がんなどの晩発性障害については“安全量”などない。「直ちに影響を与えない」からといって健康に害がないわけでは決してなく、長期的に影響が及ぶのです。
内部被曝」について・・・ICRP基準では、放射性微粒子(ホットパーテイクル)が肺に入り込んだ場合、肺の100グラム分にかけてそれを平均します。私はこの考え方に疑問を持っています。
(例えば)10万人の観客でいっぱいのサッカースタジアムがあるとします。フィールドの中心に銃を持った人物が立っています。彼は群衆に向けて7回発砲します。ICRPの考え方でいくと、銃弾のエネルギーを10万人で平均すればわずかな量になるため、誰も負傷していない。ところが実際には、銃弾が命中した、つまりエネルギーが集中した7人は怪我をしているのです。
2011年3〜5月に使用された車のエアフィルターをレントゲンフィルムで捉えた写真が3枚あります。フィルターをレントゲンフィルムに載せてから現像したものです。シアトルは1分間で11.7μR、東京は18.9、福島市は199。違いは一目瞭然です。福島県から送られた車のエアフィルターをマサチュウセッツ州の研究所で測定すると、放射性物質として破棄しなければならない水準まで汚染されていました。・・・車が燃焼のために取り込む空気は平均で人間の呼吸と同量ですから、住民への悪影響は免れないでしょう。
福島と緯度がほぼ同じマサチュウセッツ州では事故から2時間後にサンプリングを開始しています。4月の土壌サンプルからはシアトルやボストンにも福島からと思われるホットパーテイクルが降り注いだことがわかりました。
郡山市から送られた子供靴には、靴底と靴紐を中心に80ベクレルのセシウムが付着しています。4足の平均は1.66ナノキュリー。マサチュウセッツの子供靴では0.01以下です。】
避難と除染の遅れ」という章もあります。
【住民を避難させるために、政府や東電はもっと早く動くべきでした。事故分析の経験から言わせてもらえば、4時間が経過した午後7時には、問題があまりにも深刻だと現場監督者が把握していたはずです。当日の夜に3キロではなく30キロ圏内に避難勧告を出すべきでした。・・・冷却が滞れば半日でメルトダウンが起きることくらいは誰でも知っています。しかも、今回の特徴は、6基がその危機に直面していたことです。仮に幾つかが制御できたとしても、残りが手に負えない可能性がありました。・・・
事故の収束をアピールするために進められている住民の帰還によって、放射能汚染は深刻化します。一部を除染しても、周辺まで行き届いていなければ汚染物質が侵入してくるのです。チェルノブイリでは、計測されるセシウム137が地表では30年の半減期通りに減衰しません。・・根から地中のセシウムを吸い上げた植物の生物分解が一因?300年経てばすべてがなくなりますが、それまでは地中にしみ込んだ分が様々な要因で戻ってくるのです。】