金子勝神野直彦著、2012年6月NHK新書)をタイトルに惹かれて読みました。
金子・神野両エコノミストの対談の本です。「失われた10年」が『20年』になり、『30年』になりそうな日本経済に何が起こっているのか、大摑みに分析できています。
第2章の「社会保障と財政」を見てみます。
金子 第2次オイルショックが終わったあと、いわゆるサッチャーレーガン・中曽根という新自由主義政権が登場した。この時代を象徴するスローガンは、「金融自由化を軸にして、ヒト・モノ・カネがグローバルに動く」というものでした。
 金融自由化を軸にすると、とりあえず海外から資金を集めないと、国の景気が良くならないというイデオロギーが蔓延する。それがグローバリゼーシヨンであり、政府は要らない、外からお金を呼び込むために税金の負担を小さくするという話だったわけです。
 そして実際に、1980年ぐらいから景気循環のかたちが変わってきた。従来の経済学のテキストが念頭においている「実物経済による景気循環」ではなく、土地や株の値段が上がって景気が良くなるという景気循環です。即ちバブルが膨らんで壊れると、金融緩和で景気対策して、次のバブルを用意するということが、ずっと繰り返されてきたわけです。
 政府は要らない、税金は低くしたほうがいいということになると、高度成長期に形成された再分配体制、すなわち法人税所得税を軸にして、再配分的な要素を持ったお金を集めて、弱者にお金を配分するという、成長をバックにした福祉国家のメカニズムそのものが、壊れていくわけですね。
神野 福祉国家を否定した新自由主義政権がうまくいったかといえばそんなことはない。たしかに「イギリス経済の奇跡」と言われたように、生産性は向上する。しかしそれは、生産性の悪い企業が切り捨てられた結果にすぎない。だから、倒産件数や失業率はサッチャー政権下で悪化し、同時に格差が広がり社会に亀裂が入る。
金子 明らかにケインズ主義が行きづまりスタグフレーシヨンになる中で、アメリカが柱にしていた石油文明を基盤にした産業構造は飽和して、キャッチアップされてしまった。そこで、金融とITで生きていこうという形でグローバル化のロジックが出てくる。
そうなると、彼らがこだわるのは、「ルールをめぐる争い」になる。単に価格の競争でなく、ルール圏やOSを握ろうとする戦略です。知的所有権に関するWTOの考え方であったり、金融面ではBIS規制など国債会計基準でした。これらはいずれも、自分たちの国の基準を国際化していこうというアメリカのグローバル戦略でした。
神野 財政については、1980年代から完全に緊縮財政になっている。それで不況になると、金融緩和する、財政による景気回復と、金融による景気回復との相違は、金融によると、格差が拡大することです。格差を拡大し、再分配を狙う財政はだんだん崩壊していく。ますます金融緩和だけに頼る。
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