『日本劣化論』

笠井潔白井聡著、ちくま新書、2014年7月刊)
を読みました。著者の笠井さんは、小説家(「オイデイプス症候群」)で評論家(「8.15と3.11」、「永続配線論」など)。だそうです。笠井さんの経歴に惹かれて読んでみました。
 何を指して『劣化』というのか。
笠井「すでに安倍政権は日本版NSCを設置し、特定機密保護法を国家で通しました。武器輸出3原則の緩和や辺野古の基地移転も進んでいる。集団的自衛権解釈改憲や、共謀罪の創設も視野に入れ始めました。これらは例外なく、自民党右派が戦後一貫してめざしながら、国民世論の反対のため長いこと宙ずりにされてきた政策です。それが安倍内閣によって、一気呵成という勢いで次々と実現されようとしている。」
白井「安倍さんいうところの「積極的平和主義」における「平和主義」とは何か。自国の安全を確保するにあたって、積極的な方法と消極的な方法がある。消極的な方法と言うのは、とにかくできるだけ戦争にかかわらない。これに対し、積極的な方法というのは、敵を名指しして威嚇したり攻撃を加えることによって敵を無力化し、自国の安全を確保するというものです。つまり、今までできるだけ戦争に関与しないようにするという方針だったのを、今度は積極的に戦争して敵を叩くことによって自国の安全を確保する方針に転換するという意味です。」
笠井「朝鮮戦争から今日まで、自民党による再軍備路線は「アメリカの戦争に協力するためのアメリカ軍を保管する軍事量の育成」を意味した。日本の平和主義は2003年の「イラク戦争反対まで、長いこと「アメリカの戦争にまきこまれるな!」をスローガンとしてきた。
2012年の尖閣危機を転回点として事態は根本的に変化した。」
白井「日本の右派政治家の「敗戦の否認」を支えた二本柱は、冷戦構造とアジヤでの日本の国力の突出性であったが、その両方が失われている。」
笠井岸信介に始まる自民党右派勢力も、いますぐ大日本帝国が復活できるとは思っていなかった。平和憲法を改定し、再軍備を進め日米関係を対等なものに再編成しながら時期を待とうという姿勢だった。では、安倍は、ついにその日が来たと判断したのか。そうではなく、自分は正しいことを言っている。それで戦争になるならそれでもかまわないというのが、安倍の本音でしょう。日米戦争の開戦になんとなくなだれ込んでいった戦前日本の反復です。」
白井「そうですね。これはもすすさまじい劣化というほかありません。安倍政権の軍事傾斜路線は、小泉政権当時の対テロ戦争での参加を契機とした軍事的対米従属の強化と言う文脈の延長線上で捉える必要がある。ただしそこには大きな差異がある。小泉外交では、対テロ戦争アメリカのいいなりになることが対北朝鮮で独自外交を追求することと事実上バーターになっていた。評判のよくない対テロ戦におれだけ要望にこたえるのだから、北朝鮮問題については望むとおりにやらせてくれ、つまり国交樹立に向かうことを許容してくれ、というわけです。
これに対して、安倍政権は何と何をバーターにしようとしているのか」
 すくなくとも、集団的自衛権問題は、日米地位協定の改定とバーターすべき問題と、小生は考えます。
 このように、筆者らは安倍政権の軍事外交路線に「日本の劣化」を危惧していますが、アベノミクス、経済については、大丈夫か?
異例の金融緩和で、円が下落している。106円を付けている。
円安は輸出を増やし、製造業の景気をよくする。その景気が輸出産業以外にも波及するという目算でした。しかし、最近の統計は輸出数量が円安にも拘わらず増加しないことを示しています。生産の海外移転が進行し、企業は円安だからと言って、海外工場の操業度を落とせない。輸出が増えなければ、円安は原材料価格の上昇を招くため、景気を悪化させる恐れがあるが、異例の金融緩和で、招いた円安を円高に戻す策はない。
「地方創生」を謳うが、原油価格の上昇に伴うガソリン価格上昇で打撃を受けるのは地方です。交通を自動車に頼る比率は地方の方が高いからです。
 かつての輸出立国の復活を夢見て、円安を実現しても、かえって日本経済の劣化が進んでしまう。アジヤの強国復活を夢見て、「集団的自衛権」を容認し軍備を強化しても、日本の劣化を招くのと同じです。