『アベノミクスの終焉』

(服部茂幸著、2014年8月、岩波新書)なる本を読みました。 「アベノミクスを支える経済学的理論も実証的データも存在しない」というのが、この本の湯町です。この本はアベノミクスを総括しているのですが、アベノミクスだけでなく、90年代以降の日本の経済政策とその経緯について、簡潔にかつ的確に記述をしている本です。
第1章は、「異次元緩和を支える経済学」では、アベノミクスの金融緩和を論じ、それが成果を上げていない事実を詳述する。
アベノミクスの第一のつまずき
 金融の異次元緩和は、5月23日の株価下落(下げ幅1143円)と5月末の
円安停止(4月4日、日銀は異次元金融緩和を決めてから一月で円安も終焉)、円安も株価上昇も偽薬効果であった。
第2のつまずき
 輸出拡大による経済復活に失敗
第3のつまずき
実質賃金が低下し、消費が落ち込んだ。
第4のつまずき
 円安による輸出拡大と資産の値上がりによる消費の増大に成功していない。
第2章は「異次元案緩和を支える経済学」。
 日本では1990年代半ば以降、コールレートはほとんどゼロとなっている。ゼロ金利の下でいかにして金融を緩和させるのかが問題になった。その方法として考え出されたのが、量的緩和政策である。2008年の世界的な危機後、欧米もまた日本と同じ問題を抱えることになった。その結果、欧米においても、量的緩和政策が広がった。
 しかし、異次元緩和がその国の経済を成長させるという理論的根拠を検討し、それらの理論が信じられるという実証的データが乏しいと述べている
「日本とアメリカと世界の経済が金融緩和によって立ち直ったという証拠を見るまでは、我々には異次元緩和の効果を信じなければならない義務はない」
 第3章は「財政政策と公共事業」。
アベノミクス第2の矢を俎上に上げます。
第4章「成長戦略とトリクルダウン」
アベノミクスの成長戦略の理論的根拠も、基本的には新自由主義的な小さな政府論だと思われる。重要な論点は、小さな政府が経済成長につながるのか、格差の拡大が望ましいのか、の二つである。政府支出のGDP比と一人当たり(累積)経済成長率とをグラフにプロットしてみると、政府支出の小さい国が成長率が高いとは言えないことがわかる。
経済学の教科書によれば、市場が資源を効率的に配分することができるのは、完全競争市場で、しかも市場の失敗のない場合だが、現実の市場は完全競争市場ではなく、市場の失敗もしばしば生ずる。現実の市場は大なり小なり歪んでいて歪んでいる場合には、政府の介入がゆがみを正す可能性はある。ただし、可能性であって、政府が愚かであった時には、政府の介入はかえって状況を悪化させる。
 教科書によると、市場による資源の効率的配分は、所得格差の問題を排除している。市場の結果が生み出す格差が望ましくないとするならば、それを解決することは政府の仕事である。実際、大きな政府が行っていることは、所得の再配分である。政府を小さくすることは格差を大きくすることになる。格差を縮小するトリクルダウンはどうか。
アベノミクスから1年以上たっている現在、トリクルダウンは生じていない。いざなみ景気時(2002〜2008)にもトリクルダウンはなかった。レーガノミクスの時代からアメリカではトリクルダウンは生じて胃ない。現時点でアベノミクスの下でトリクルダウンんが生ずると信じる根拠はない。
 第5章(終章)で、「失敗から穴場ない愚か者が同じ失敗を繰り返す」の商大通りの内容です。