日本病

金子勝さん(経済学者)と児玉竜彦さん(医学者)が『日本病』(岩波新書)という本を出した。以前お二人は『逆システム学』(2004、岩波新書)を著し、経済学に生物学の手法を適合させようという野心的な試みをされた。http://d.hatena.ne.jp/snozue/20060203
その続編らしい。
 医学の抗生物質耐性を例にして、アベノミクスの問題点を指摘する本でした。
インフレターゲット論とは、中央銀行が物価目標を掲げ、金融緩和で貨幣供給量を増やせば人々がインフレ期待を抱き、消費を増やして経済は良くなる。」という考えである。
これは「予測」の操作可能性が論拠となっている。しかし、政府や中央銀行が人々の「予測」をコントロールできるという論拠は何も示されていない。
 安倍政権は武器輸出を「国策」として進めるため貿易保険を適用する。損失が生じれば、税金で補てんする。集団的自衛権を行使する安全保障関連法によって世界中で米国の戦争につきあい、日本製の武器の販売促進を図る。結局、政府の産業政策は、国内市場を作りえず、競争力を失う既存大企業をインフラ輸出政策や税金を投入する官需で救済し、韓国、中国との競合領域での輸出に依存する状況になっている。それが未来の産業構造への転換を遅らせていくと言う悪循環に陥っているのだ。
 バブル経済とその破綻以降、日本経済は、リーマショックを経てアベノミクスから衰退への道を突き進む「日本病」に落ちっていると金子さんは言う。
 複雑なものが病気になるとき、ある特徴的なメカニズムがある。適切でない治療が繰り返されると、治療に抵抗性を有する「耐性」を生み出し、その結果、より深刻な病態を生む。
第2日本章病の症状」で、アベノミクスの正確な評価を試みる。
アベノミクスについてフィルター(好都合なデーヤのみ知らせる)をかけない評価を試みると、目的は達成されず、官制相場で株高を演出し、年金財政を破綻に追い込み、株式市場の外資化を招き、大企業の内部留保と配当だけを膨らませて、貿易赤字を常態化させている。
1995年5月、トヨタが5年間売却できないが「原本」を保証する「AA型種類株式」を個人向けに5000億円発行する計画を打ち出した。その背景にはトヨタも外国人投資家の株式保有率が3割を超えたことがある。
安倍内閣の政権中枢自体が自覚して、異次元の金融緩和を用いて「株高」を演出できればそれでいいという、「偽薬」の政策として行っているのではないかという疑いが濃い。
「株高」演出の間に、安倍首相の本来やりたかった特定秘密保護法、安全保障関連法などの「戦争法案」に急傾斜していき、いまや経済専門家の大半はアベノミクスを公然と支持することを止めている。
 政権延命と、戦争を可能とする法案を進める隠れ蓑として、フィルターを掛けた大量のデータが「アベノミクスの成功」として政府から垂れ流されているのだ。
第4章「主流派の言説と実感のずれ」では、「フィードバックを現場から行うべき」と説く。
第4章、第5章で、エピゲノム8制御系のの崩れ)について述べる。
 前立腺の細胞は、男性ホルモンの刺激で増殖している。前立腺がんになっても最初は、男性ホルモンが必用なので、前立せんの中に留まっている。そこで男性ホルモンの増殖の信号を抑えてしまう薬を用いると、小さくなる。だが、前立せんの中で細々と生き残っていて、そのうちに、男性ホルモンの信号を男性ホルモンがなくても伝えてしまう細胞が出てくる。男性ホルモンがなくても生存するがん細胞は、骨髄でも生存できるようになり、痛みや骨折を起こし全身状態を悪化させる。がん細胞は治療とともに変化している。
 金融の世界で起こっていることを見ても同様な変化が起きている。異次元の金融緩和で、金融緩和に耐性を寺つ経済になりつつあるのでは。
高齢化社会の問題は、25年続く「失われた世代」から生み出されている。
 第7章「日本病からの出口」で、経済政策にも現実を見つめてフィードバックを再確立する重要性を述べる。