ぼんやりの時間

『ぼんやりの時間』(辰濃和夫著、岩波新書、‘10年3月刊)を読みました。
著者は、1930年生まれで、朝日新聞入社、1975〜88年「天声人語」を担当した方。
 読み終えての感想は「天声人語の新書版、人間が人間らしくあるためには閑がなくてはならない」と、説く本です。
『モモ』
ミヒヤエル・エンデの傑作『モモ』の主人公は「ぼんやりしている時間」を大切にする少女だった。
 エンデの作品は、時間泥棒の「灰色の紳士たち」が、人々から「時間」を奪っていく物語だ。むだだと思われる時間を奪われた人々の暮らしはどうなるか。それが『モモ』の主題だ。
かなしいことに、私たち現代人は、夜空をしみじみと仰ぐ習性からしだいに遠ざかっている。利潤とか、効率とか、管理とか、スピードとか、そういうものを生活の拠り所とする人々が増え、夜空を眺めるなんてむだなことだ、と思う人が増えてきた。
 灰色の紳士たちは、人々の心に忍び込んでは「むだな時間を節約し、その分を『時間貯蓄銀行』に預けなさい」と誘う。その説得の仕方があまりにも巧妙なので、人々は節約した時間を灰色の紳士たちの銀行に預けるのに同意してしまう。銀行に預けられた「時間」は総て、灰色の紳士たちが生存するために使われてしまう。いわば詐欺そのものなのだが、人々は詐欺とは気付かず、せっせとむだな時間を削っては、その分、自分たちの生活を貧しくしてゆく。
 それはちょうど、企業の一員となった会社員が、企業という怪物に時間を奪われ、家庭で過ごす時間切り捨てることになり、日々の暮らしを犠牲にしてゆくありさまに似ている。
 一見むだにみえる時間のかなりの部分が、じつは大切な役割を果たしている。ところが『モモ』の世界では、灰色の紳士たちに洗脳された人々は、そのことが分からなくなっている。
「人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそって、なくなってしまうのです」

ニュージランド(平和度指数世界一と最近報道された)
 この国の人たちが造ろうとしている「国のかたち」には、独特のものがあり、学びたいところも少なくない。一口にいえばそれは、技術文明の抑制だ。
 深くえぐられた入り江がある。カネをかけて橋を造れば、対岸まですぐに行けるのだが、橋を架けない。3,40分、回り道をして歩いたからといって、どうということはないじゃないか。
 小さな村では、上水道を造らず、家々が、大きな雨水タンクを庭に備えている。南半球の水が比較的綺麗で、飲み水にすることができるという事情もあるが、「上水道のようなカネのかかる施設を造るよりは、こうやって雨水を貯めるという単純な方法の方がいい」と村人たちはいう。以上は、ニュージーランドの話です。
バートランド・ラッセル
「私が本当に腹からいいたいことは、仕事そのものは立派なものだという信念が、多くの害悪をこの世にもたらしているということと、幸福と繁栄に到る道は、組織的に仕事を減らしていくにあるということである」
 ラッセルは、閑こそ文明にとってなくてはならぬ大切なものだという。近代の技術をもってすれば、閑を公平に分配することもできそうなものだ、と考えた。
 そこから、ラッセルの「一日4時間労働」という夢のような発想が生まれる。・・・
 しかしラッセルは、残念ながら、「では、いかにして労働時間を減らすことができるかの」という道筋についてはあまり言及していない。
 (私見ですが、ベーシック・インカム制はその端緒では?と思います。)
http://d.hatena.ne.jp/snozue/200904
 時には夜空をしみじみと仰ぎませんか。
佐藤勝彦
 宇宙論の本をひもとくと、たいてい「ダークマター」という言葉と「ダークエネルギー」という言葉が出てくる。
 宇宙の本当の主役は暗黒物質ではなくて、未知のエネルギー、つまり暗黒エネルギーだと佐藤勝彦は書いている。宇宙の膨張速度を加速するには、なんらかのエネルギーが必要で、その招待は暗黒エネルギーだろう、というのだ。
 驚くのはまず、この宇宙を造っているさまざまな種類の物質やエネルギーのうち、私たちが知っているものは、たった5%に過ぎないということだ。残りの95%の正体はまだよくわかっていない。
 95%のうち、20%強は暗黒物質であり、70%強は暗黒エネルギーだと考えられているが、この暗黒物質と暗黒エネルギーの正体はまだよくわかっていない。
K社長の話
 「休むときは徹底的に休みます」
「会社の幹部との連絡はいっさい絶ちます」
「留守中は会社の連中にいっさい任せています。」おもしろいのは、私が旅から帰って出社するときですね。みんな緊張しているのです。休み明けだとそれこそたくさんの指示が飛び出すからなんです」
―――――指示が飛び出す?
「休みを終えて社に戻ると、私の中に新しいアイデアがどんどん湧くんですね。で、次々に指示を出す。社員はそれに追われて、大変なのです。次々に指示が出て、それで、何時のまにか懸案や悩みが解決している。たくさんのボケーとした時間をもったからこそ、あいアイデアが飛び出すんでしょうね。」
 私見です:人間の脳細胞は、考えかけた課題を、意識しなくても、いつも考えている。たとえ、ボケーッとしていても。いや、むしろボケーッとしている時こそ、考えている。