よく似た歌

 賛美歌312番、久世光彦の「マイラストソング・第5巻」を見たが載っていない。ではと、第1巻の「マイラストソング・あなたは最後に何を聴きたいか」を鶴舞中央図書館の書庫から取り寄せてもらった。95年4月10日の刊行です。(このエッセイは平成4年4月から17年の12月まで雑誌「諸君」に連載されたようで、筆者は本年3月急逝した。)

 あった!「賛美歌312番」という章。

【私には、子供のころから、いつもどっちがどの歌だったか、よく判らなくなってしまう二つの歌がある。・・・

 第一の歌は、ヘイス作曲、堀内敬三訳詩の文部省唱歌「冬の星座」である。

http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/fuyunoseiza.html

 木枯らしとだえて さゆる空より

 地上にふりしく 奇しき光よ

 ものみな憩える しじまの中に

 きらめき揺れつつ 星座はめぐる

 次は明治43年に制定された<教科書統合中学唱歌>の中の「星の界(よ)」で、作詞は杉谷代水、曲は米人のコンヴァースとなっている。

http://www5b.biglobe.ne.jp/~pst/douyou-syouka/04gaikok/hosino.htm

 月なきみ空に きらめく光

 嗚呼その星影 希望の姿

 人智は果て無し 無窮の遠(みち)に

いざその星影 きわめも行かん

おなじ天界を歌っているし、小節もおなじ16小節、訳された言葉の数も7・7調と、何から何まで似ているのである。・・・この「冬の星座」のメロデイを作ったヘイスという人は、19世紀の中ごろ、たくさんの歌曲を世に出したアメリカの作曲家だが、フルネームがウィリアム・シェクスピア・ヘイスというのが面白い。他に「故郷の廃家」なども作っている。「星の界」のコンヴァースについてはよく判らない。

 楽譜を二つ並べて、一つ一つ音符を照合してみると、ずいぶん違うのだが、やっぱり似ている。多分おなじ時代に作られた、共にアメリカ人による曲ということで、そう感じるのだが、私の混同のいちばんの理由は、訳詩から思い浮かべる光景がそっくりなことと、使われている語彙の類似ということだろう。たとえば「星の界」の《人智は果て無し、無窮の遠に》に対して、「冬の星座」の二番には「《無窮をゆびさす、北斗の針と》というフレーズがある。用語の古めかしさからいって、おそらく「星の界」の方が、わが国では早く紹介されたのだと思うが・・・

 これに更に「賛美歌312番」がからんでくるから、話は面倒になってくる。番号で判らなかったら「いつくしみ深き」と言えばクリスチャンでなくても、ほとんど誰もが知っている、賛美歌中の賛美歌である。

http://www.ylw.mmtr.or.jp/~johnkoji/hymn/312.html

 このメロデイが「星の界」と同一なのである。・・・明治のころ、日本でも多くの人に歌われ始めた賛美歌の一つに、杉谷某という人が「星の界」という歌詞をはめ込んだわけなのだが、金田一晴彦著「日本の唱歌」によれば、この賛美歌の原曲が、コンヴァースの「what a Friend we Have In Jesus」という歌曲なのだそうである。】

 以上で引用を終わります。要するに別の曲なんです。一緒に並べて聞くと、確かに別の曲です。ところが別々に聴くと、どっかで聴いた曲だ!人によって「冬の星座」だったり「星の界」だったり。雰囲気も歌詞もそっくり。

 更に、面白いのは、私の借りてきた本に、賛美歌312番というタイトルを鉛筆で消して「493番」に直した人がいる。312番と493番は同じという意味だろうか?