強い力と弱い力

「強い力」、「弱い力」の意味がわかりませんでした。物理学では、素粒子に働く力は、電磁気力、強い力、弱い力、重力の4つだ、と聞いたことはありますが、この「強い力」、「弱い力」って何なのかわからなかったのですが、この本、「強い力と弱い力」(大栗博司著、幻冬舎新書、2013年1月刊)を読んで、少し分かったような気がしました。
 電磁気力より強い力が「強い力」、電磁気力より弱い力が「弱い力」なのだそうです。
 どうして強い力、弱い力という考え方が必要になったのか?
 原子の中では、電子が原子核の周りを回っている。この原子核は陽子と中性子に分割される。では、陽子と中性子はどんな力によってまとまり、原子核を形作るのか?結びつけている力は核力と呼ばれた。
 核力は大きな謎でした。物質同士の間に働く引力といえば重力を思い起こしますが、重力は弱すぎて話にならない。重力が弱いということは、金属製のクリップに上から磁石を近づけると持ち上がることでわかります。小さな磁石の力の方が、地球一個分の重力よりはるかに強い。
 では、重力より圧倒的に大きい電磁気力でこの力を説明できるか。電磁気力には重力と違い反発力がある。電磁気力しかないと、プラスの電荷をもつ陽子同士は電荷の反発力でバラバラになってしまう。原子核をまとめる力は重力や電磁気力とは別の力を考えなければならない。核力を解明したのが湯川博士、核力を伝える粒子の存在を予言した。
 陽子や中性子の間でパイ中間子がやり取りされることで、結びつける力が生ずるという理論です。この中間子は複数のクオークという素粒子でできていることがわかり、クオークの間で働く力が「強い力」。
このように、素粒子間に力が働く場合、その力を伝える粒子が存在するというのです。
(力を伝える素粒子は「ボゾン」、物質を形成する素粒子は「フェルミオン」と呼ばれる)
現在では、「強い力」を伝える素粒子は「グルーオン」と呼ばれているようです。
陽子や中性子の内部構造がわかってくると、新しい疑問が生じてきました。クオークは単独で検出できないほど強い力で陽子の中に閉じ込められているのに、なぜその中では自由にふるまうことができるか?陽子の内部で自由に振る舞えるとは、クオーククオークの距離が短いときには、グルーオンが伝える強い力はほとんど効いていないということ。ならば簡単に引きはがせるかと言うと、そのためには無限大に近いエネルギーが要る。つまり、クオーク同志を結びつける強い力には、「距離が長くなるほど強くなる」?
これを説明したのが、「ヤン・ミルズ」理論。この理論では、電場や磁場を通過する粒子は、運動(軌道)を変化するだけでなく、粒子の種類も変化させる。
 物理学の研究が進むにつれ、運動の状態を変えるだけが力の働きでないことがわかってきた。重力と電磁気力は運動の変化だけで理解できますが、強い力と弱い力には別の働きがある。たとえば、セシウム137からのベータ線の放射の際は、弱い力によって中性子が陽子に変化する。つまりそこには、粒子の運動だけでなく「種類」を変える働きもあります。
 万物は等速運動をしており、力が伝わるということは、その運動の軌跡を変えることだと考えると、粒子が衝突すると、力を伝えるだけでなく、素粒子の種類を変えるという意味が分かり易い。
次に、弱い力とは?
原子核の「β崩壊」(電子線の放失)を研究していた物理学者は、その際に「ニュートリノ」という素粒子が放出することを発見します。このニュートリノと電子を中性子と結びつけているのが「弱い力」。「弱い力」を伝える素粒子をWボゾンと名付けました。弱い力はきわめて近い距離にしかはたらきません。そのことは、Wボゾンが質量をもつことを意味します。
「弱い力」を伝える素粒子は、Wボゾンだけでなく、もう一つZボゾンがあることがわかりました。Wボゾンは電荷を有し、Zボゾンは電荷ゼロです。
Wボゾンの働きで、「β崩壊」の際、中性子→陽子とか、ニュートリノ→電子とかの粒子の種類の変化がありますが、Zボゾンは電荷がないので、電子とニュートリノがぶつかっても、粒子の種類は変わらず、そのまま跳ね返るのみです。
それでは、電磁気力を伝えるのはどんな粒子か?光は電磁波の一種です。したがって、光を伝える粒子と電磁波を伝える粒子は同じで、光子と呼ばれます。
 ところで、光子には質量がない。また、光には横波がない。
 地震には縦波と横波があります。地震波の伝わる方向と直交する方向に地面が揺れるのが横波です。横波と縦波伝わる速度が違いますから、その差から震源地までの距離を求めることができることは、よく知られています。
 ところが光には横波がない。縦波だけです。
 力を伝える祖粒子の質量が大きいと、力はその周辺にしか届かない。質量がゼロになると、(光のように)遠くまで届くのだそうです。そこで、「弱い力」を説明しようとすると、質量がどう関係しているかを説明する必要がでてくる。「対称性が破れると、質量のない粒子が必ず現れる」という南部理論の説明が面白いのですが、長くなりましたので割愛。その後、登場するのが「ヒッグス場」の理論です。
物理学者は、電磁気力に電磁場があり重力に重力場があるごとく、「ヒッグス場」があるのだと説明する。電磁場がある場所を電荷をもつ粒子が通ると、粒子の運動状態が変化する。同様にヒッグス場があると、質量が変わる。
電磁場の影響力は、粒子の「電荷」の大きさによって異なる。同様に素粒子には「ヒッグス荷」があって、素粒子の質量は「ヒッグス荷×ヒッグス場の値」に等しい。
ヒッグス粒子が「質量の起源」を説明すると思っていた人はがっかりするかもしれません。「素粒子に質量がある」と言っているのを、「素粒子にはヒッグス場とヒッグス荷がある」と言い換えているだけですから。
物理学者が「ヒッグス場」を導入したのは、電磁気の力と弱い力を統一するためであって、「素粒子の質量の起源」を説明するためではない。・・・ということでした。