経済学ノート

1ドル50円時代を生き抜く日本経済

『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』(浜矩子著、朝日新聞出版、11年1月刊)という本を衝動買いしました。 歴史的にみると、ドルは世界の基軸通貨の地位を去りつつあり、次にくる時代は機軸通貨なき時代だ、というのが筆者の世界経済観のようです。以下、…

通貨で読み解く世界経済

03年から04年にかけて、日本政府は約35兆円にも及ぶ(政府の年間税収入の7割〜8割)空前の為替介入、円売りドル買いを行った。これをどう評価するか。 『通貨で読み解く世界経済』(小林・中林著、中公新書、10年7月刊)によると、 【あえて日本で日…

ユニクロ型デフレと国家破産

『ユニクロ型デフレと国家破産』(浜矩子著、2010年6月刊文春新書)は面白い本でした。 少し長くなって恐縮ですが、以下に紹介します。 「失われた10年」あるいは「20年」と言われる近年の日本経済不調の時代、私が疑問に思っているのは、この間の日本の経済…

「分かち合い」の経済学

“「分かち合い」の経済学”(神野直彦著、10年4月刊岩波新書)を読みました。 まず、「あとがき」の一節を紹介します。 【若き頃、私の勤務していた自動車会社の教育施設が、鎌倉の由比ガ浜にあった。私は人事の担当者として管理者教育のために、よくそこ…

『不良債権と金融危機』(池尾和人編、慶応義塾大学出版会、09年12月刊)。

編者は序章でこう述べています。 「米国発の金融危機に際して、わが国の経験を米国はじめ世界に伝えるべきだという主張がなされた。しかし、経験を他者に伝えるためには、自らがその経験を教訓化できていなくてはならない。そうした教訓化の必要性を自覚して…

『グリーン資本主義』

2冊目は、『グリーン資本主義』(佐和隆光著、岩波新書)。 著者の主張で面白い点を抜書きしてみましょう。 【民主党の歴史的圧勝(=自民党の大敗)の原因を私は次のように見る。 第一に、日本の政界に世襲制が制度化し、とりわけ自民党には、二世代議士が…

国際環境の変化と日本経済

『国際環境の変化と日本経済』(伊藤元重編、慶応義塾大学出版会、09年11月刊、全393頁)を読んでいます。 「修士論文の参考書として読んでみてください」と指導教官にアドバイスされたのです。 内閣府の経済社会綜合研究所のプロジェクト「バブル/デフ…

日本はなぜ貧しい人が多いのか

経済のグローバル化について、参考本を探していて、面白い本を見つけました。 『日本はなぜ貧しい人が多いのか』(原田泰著、新潮選書、09年9月刊)です。グローバル化だけでなく、経済全般に関して、世間に流布している通説について、図表(データ)を使…

続『日本はなぜ貧しい人が多いのか』

『日本はなぜ貧しい人が多いのか』から話題を紹介、続編です。 1. 国際競争力と国民の豊かさ 少し変わった観点で説明しています。 日本の輸出の世界シェアの伸び率を横軸に、一人当たりGDPの伸び率を縦軸にとり、1978年から2000年までの両者の関係を…

何故経済学は自然を無限ととらえたか

三菱UFJ証券の水野和夫さんが、資源の有限性が経済成長を制約するという発言をしていました(10/27中日)。 【民主党政権に対し、成長戦略が見えないとの批判が多い。それは近代社会がよってたつ基盤が揺らいでいなければ正しいが、21世紀のグローバル化は…

「日本銀行は信用できるか」

「日本銀行は信用できるか」(岩田規紀久男著、講談社現代新書、09年8月刊)という本を読みました。甚だ挑戦的な本です。 日銀の政策を決定するのは、日本銀行政策委員会である。委員会のメンバーは、総裁、2名の副総裁、それに6名の審議委員、計9名です。 …

ドル円相場の政治経済学

『ドル円相場の政治経済学』(加野忠著、日本経済評論社06年9月刊)を読みました。 筆者は東京銀行証券部長などを経て85年同行退職。ソロモン・ブラザーズ銀行在日代表。97年横浜商科大学商学部教授。 本書のねらいについて、著者ははしがきでこう述…

アメリカは何を考えているか

『アメリカは何を考えているか』、岩波ブックレットの1冊を読みました。著者の赤木昭夫さんは、NHK解説委員や、放送大学教授を歴任。06年7月の刊行です。雑誌世界に04年2月、05年4月、06年8月掲載したものに加筆したもの、薄い本ですが、内容は…

円相場の内幕

『円相場の内幕』(玉手義郎著、集英社95年1月刊)という本を読みました。 筆者は、東京銀行外為デイラー、ケミカル銀行などを経てTBS入社。この本は、プラザ合意以後94年の1ドル90円割れまでの、為替市場の「現場からの報告」ともいうべき書です…

円と日本経済の実力

目から鱗」の経済書を見つけました。薄っぺらな本(岩波ブックレット)ですが、充実した内容でした。鈴木淑夫著『円と日本経済の実力』(08年3月刊行)、筆者は日銀理事・野村證券理事長を経た元衆院議員(96〜03年)です。 この10年来の日本政府の…

市場機構と経済厚生

「市場機構と経済厚生」(川又邦雄著、創文社現代経済学選書、1991年5月刊)は、こんな本でした。 序説において、筆者はこう述べる。 『「経済学」には「実証的」および「規範的」という二つの視点からの分析が可能である。 実証的経済学の命題は、典型的…

日本経済を襲う二つの波

『日本経済を襲う二つの波』(リチャード・クー著、徳間書店08年6月刊行)を読みました。 先日、為替レートに関する著者の基本的な考え方を知りたくて、初期の著作「投機の円安 実需の円高」(96年1月刊行)を読んだのですが、興味深い記述でした。1…

為替が分かれば世界が分かる

『為替が分かれば世界が分かる』(文芸春秋社)を読む。著者は榊原英資、元大蔵省審議官です。2002年12月の発行だが、本のあとがきにこうあった。 「小泉総理、竹中大臣等が「改革」へのある種の情念を抱いていることはたしかなようだが、その発想、政策形…

投機の円安 実需の円高 2

今日、貿易で必要とされる通貨量の100倍にも及ぶ通貨取引があるという。それでも、為替レートを決めるのは、通貨の実需であって、通貨の投機ではないといえるのか?『一日の為替取引が1兆ドルもあるときに、その5%しかない実需で、全体説明しようとす…

投機の円安 実需の円高

『米国人は貯蓄をしないで放漫な生活をし、その結果、自国で生産するより多くを消費しているから貿易赤字になる。日本人は一所懸命ものを作り、消費を切り詰め、こつこつ貯蓄しているから黒字が出る。米国人はキリギリス、日本人はアリだ。米国人は日本の黒…

投機の円安 実需の円高

修士論文のテーマに関連する文献を探していて、「投機の円安 実需の円高」(リチャード・クー著、東洋経済新報96年1月刊)を見つけました。 96年の刊行ですから、アジヤ通貨危機も9.11テロも、100年に一度の大不況も書かれていません。しかし、為…

経済学の考え方

「経済学の考え方」(宇沢弘文著、岩波新書、89年1月刊)を読みました。 アダム・スミスの項に、こんな文章がありました。 【スミスの『道徳感情論』は、・・・同感という概念を導入し、人間性の本質を明らかにしようとした。人間性のもっとも基本的な表…

為替市場の読み方

「為替市場の読み方」(佐中明雄著、講談社現代新書、98.07刊)を読みました。 外国為替の一般向け解説書ですが、「第5章外国為替市場の変動と予測」が大変参考になりました。以下、この章の内容を要約で紹介します。 為替相場決定の古典的学説としては、「…

トービン税入門

「トービン税入門」(ブリュノ・ジュタン著、和仁道朗訳、社会評論者06年3月刊)を読みました。1971年8月、アメリカのニクソン大統領は、ドルの金への交換性停止を発表した(グローバル化の真の出発点である)。第2次大戦後に成立したIMF体制(ドルを…

為替レートの謎を解く

「為替レートの謎を解く」(クルーグマン著、伊藤隆敏訳、東洋経済新報90年1月刊)を読みました。 著者の講演録で、刊行時点を見て分かるように、データは1990年以前(1970〜)のものですが、興味深い指摘をしています。以下、その一端の紹介です…

国際金融論

「国際金融論」(河合正弘著、94年6月東京大学出版会刊)を読みました。以下、同署の興味深い論点について記します。第3章は、為替レートの決定理論です。 為替レート決定モデルの予測能力に関しては、変動レート制期の全体を通じてレート変動を安定的な…

「自己組織化の経済学」

「自己組織化の経済学」(ポール・クルーグマン著、東洋経済新報97年8月刊行)を読みました。 複雑系の科学が、経済学にどのように応用できるか?筆者は「創発」という概念に着目する。市場の「見えざる手」によってだれも意図しなかった帰結に導く様子をア…

良い経済学悪い経済学

「良い経済学悪い経済学」(日経新聞、97年刊)という本を読みました。 著者はポール・クルーグマン、昨年のノーベル経済学賞の受賞者です。彼の著書に「為替レートの謎を解く」という本があると聞き、愛知県図書館に探しに行きましたが、生憎誰かが読んで…

通貨危機と資本逃避

『通貨危機と資本逃避』(高木信二著、東洋経済新報社、03年2月刊)という本を読みました。副題に「アジヤ通貨危機の再検討」とあるように、97年後半からタイを起点に始った通貨危機を理論的に分析した書です。 急激な資本流入と資本逃避を説明するモデ…